高橋健人 視点

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「ふぅー」  何とか女性陣を切り抜け、誠が座っていた場所に向かう。けれど、その場に誠の姿はなかった。  一体どこに行ったんだ?  そう疑問に思い、周りの奴らに聞いても、行く先は誰も知らないみたいだった。  一旦サークルから離れて、辺りを探し回る。  すると先ほどまで居た場所から少し離れた、ベンチに誠は座っていた。  そこが会場全体を見渡せる穴場スポットだとは知らないだろう。会場に背を向けていた。  ともあれ誠が居たことにホッと安堵して近寄る。 「おい」 「うわっ」  何の躊躇もなく声を掛けた。それはいいものの、俺の発した声と同時に、ペットボトルを頭上に乗せた事に対して誠は驚いたみたいだった。  相変わらず、たわいのない事で可愛い反応をする誠。ついクスッと俺は微笑した。  サークル場所から抜け出した後、一滴も飲んでいない喉はカラカッラに乾く。  たまたまサークル会場に行く前に目にしたコンビニへと立ち寄った。  だけど誠の分は、探している最中に段々ほんのりとした暖かさに変化していった。  そんなことには気にも止めずに受け取る誠。 「何でいなくなるんだよ」  誠の隣に腰掛け、揶揄うように質問を投げた。  感慨深く目の前に流れる川へ目を向ける。緩めの風が吹いて、桜の木から花びらが舞う。  ヒラヒラと落ちていく先は川だった。流れていく川に桜の花びらが連れていかれる。  そんな一連の流れを見ていると誠が言葉を発した。 「・・・・・・誰かさんが女子に引っ張りだこだったからね」  地味に痛い言葉を吐かれ、女性陣に連れて行かれる現場を見られていた事に気付いた。 「それは・・・・・・すまなかった」  俺は自分がしてしまった事に対して、素直に謝る。誠がどう思っているのかは気になるもので、恐る恐る誠の顔を覗いた。  決してぷくっと頬を膨らませ、あからさまには怒っていない。寧ろ若干瞳が揺れていた。 「もういいよ」  女性陣に連れて行かれた話は、許して貰ったみたい。誠の顔は一向に晴れず、ごもごもと口ごもっていた。  そっと何時ものように優しく頭を撫で、相手の反応を伺う。  それでも誠は眉をひそめていて、納得していなさそうな様子に感じた。  何だか心配になり、自らこちらに引き寄せる。欲しがるように自分の身体で誠を包んだ。 「何?」  少し突っかかったような口調で、俺の顔を見ようとしない。ただ抱き締めた事に対して問いを求めてきた。 「最近、卒論やゼミの授業で、中々会う機会がなくてごめんな」  無理に顔を合わせたりしないで、さっきよりも強く抱き締めた。  誠と付き合い始めたのは3ヶ月前。  どんな関係でもずっと誠と居た、その合計した月日の分だけ謝る。自分に余裕がなく現状に追われていて誠に構ってやれなかったからだ。 「っ、うぅ・・・・・・ずっと寂しかった。健人さんが忙しいのは理解してるけど会いたかった」  ぷつっと糸が切れたのか、酒の酔いが回ったのか、誠は涙を流す。引きつったような喋り方で弱音を吐く。 「それと玉砕覚悟で告白したから、しっ、心配で! 健人さんは他の人にモテるし、さっきみたいに取られたりすると・・・・・・」 「大丈夫、誠の事は誰より大事だ。ずっと好きだった奴の手をそう簡単に離したりはしない」  誠の不安を取り除きたくて、我慢が出来なくなり話を遮った。 「へ?」  誠の涙がピタッと止まったらしく、こちらを見るなり裏声が出ていた。それからも、ひたすら誠の話を聞いては弁解し宥め続けた。
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