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それならば、浅井くんが居なくなった今も同じことが言えるかと言えば、それは今まで以上に浅井くんを近くに感じる。不思議でたまらなかった。
この世に居なくなったと聞いた瞬間から、浅井くんをより近くに感じるようになったのだ。
魂がどうとか言うつもりは無い。そうではなく、対象が死者になってようやく彼への愛情に気づいたような気がする。彼を知っていて、彼が恋愛対象として見ていた最期の人物が私だったことに優越感さえ覚えた。燃えるような恋ではなくても、緩やかに揺れるロウソクの灯りのような静かな愛情が確かにあったのだと言えることは間違いなかった。
「それで?どうするの?」
「なにが?」
母が唐突に聞いたので面食らった。
なんのことだろうと一瞬考えて、あぁ…と気づいた。
「もちろん行くよ。お葬式ね」
「そう。じゃあ喪服出さなきゃね」
そう話している間にも私のスマートフォンにはひっきりなしにメールやらLINEやらが届いた。
その度にいちいち開いて読んだりはしなかったが、そのうちの一つに「浅井くんのこと聞いたよ。明日のお葬式行くよね」という簡素で事務的な文があったので、それには「行くよ」と短く返信した。
その他のメールは大概が「大丈夫?」と聞いていた。それには返信はしなかった。
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