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僕は小さな町に生まれた。面積はそこそこ広いけれど、なんせ人が少ない。昔は分校を含め小学校が10校以上あったらしいけれど、僕が小学校に上がった頃には半分の5校だけになっていた。
僕の小学校は100年以上続いているらしい。校舎も古くて、去年の5年生の頃から、少しずつ耐震工事を進めていた。僕たちのいる小学校が1番規模がおおきいと言うことで、2年後全部の小学校を統合したときにこの校舎へ引っ越すんだとか。
1番大きい僕の小学校の全校生徒は90人くらい。
1個下の学年は32人いるけれど、僕の学年は19人しかいなくて唯一2クラスある学年を羨ましいなあ、なんて友達と言い合った。6年間、どう足掻いてもずーっと同じメンバーよりかはちょっとでもシャッフルした方がいいはずだ。
ちなみに、1番少ない小学校の全校生徒は10人らしくて、小学校どうしの交流をしたときに出会った友達には「入学する1年生がいなくて、入学式をしない時もある」と言うことを教えてもらった。僕と同じとしの同級生は3人らしい。
そんな、小さな小さな世界でちょっと古い校舎で、最近ガタンゴトンしてたりする学校でのお話をしたいと思うんだ。
空き教室が多いけれど、1〜3年生は2階の教室を使って、4〜6年生は3階の教室を使っている。空き教室は何もされていなかったり、児童会室みたいな名前で5年生と6年生の教室の間にある。
5年生になってから、昼休みなんかにそこで縄跳びしたり、放課後に徒歩通学している同級生たちと動き回る遊びをした。クルクル回ってどっちが長く耐えられるとか。
放課後、僕は昼休みに忘れ物をしたと言いながら児童会室へいった。
カーテンはしめらていて、暗い。
「失礼しまぁす」
古い校舎なので、ガラガラと音を立てながら扉が開く。今頃、放課後の教室はいつものメンバーで大騒ぎで少し聞こえる。暗さ、静けさに怯えながら、僕は児童会室へ入った。
大きなテーブルの近くにある大きめの椅子に腰掛けている女の子がいた。
体が少し小さい。4〜6粘性で小さい順で並んだら、1番目か2番目くらいの小ささだ。真っ黒な髪の毛でバサっと伸ばしっぱなし。長ズボンにトレーナーをきている。トレーナーでは少し寒いんじゃないかと言うくらいの気温だったので僕は首を傾げた。
「ここ、ストーブもついてないよ。寒くないの?」
そう言うと、女の子はハッとして僕の方をみた。大きく目を開いて、鳩が豆鉄砲食らったようなかおだ。
「ううん、寒くないよ」
女の子は小さく控えめな声でいった。
「何か嫌なことでもあったの?寒いよ」
「…嫌なことはないよ。ここ教室じゃない。皆を待ってるの」
そんなばかな!
「ここは児童会室でしょ?皆はここにはこないと思うよ。何年生?」
「…わたしは6年生だけど」
「えっ」
6年生は5年間ずっとみてきた先輩たちだ。人数も25人くらいだったはずだし、知らないはずはないのに。僕はこの女の子を知らない。
「6年2組の佐々木まゆこだよ。君こそ何年生?3組の子かな」
「僕は、5年生の長澤巧だよ!」
「あれぇ、たくみくんは同じクラスにいるけれど」
まゆこさんはさらに不思議そうな顔をした。ふと外の音に耳を澄ますと、さっきよりもガヤガヤとしている。気のせいなのか、わからない。
「さっき体育館で椅子と机使ったから、ここに机と椅子はないけどすぐに皆も戻ってくると思うよ」
まゆこさんは穏やかに笑った。僕はドキドキとしていくのを感じた。まゆこさんはカーテンを開けたのだが、夕暮れが差し込まない。まだ太陽が天井にある、光をしていた。
なんだこれ、なんだこれ!
僕は状況の違和感に押しつぶされそうになりながら、違和感の解決策を絞り出した。
「ちょっと、教室のプレートを確認するね。僕が間違えちゃったかもしれないから。またね」
「そう?わたしはずっとここにいるから、また戻ってきていいからね」
まゆこさんが笑うのを見届けてから、教室を後にした。
ピシャ。
扉を完全にしめ、プレートを確認する。
新しめのプレートには、確かに「児童会室」と書かれていた。外の賑やかさも僕が知っている話題や声に戻っていた。僕はとぼとぼ5年生の教室へ戻った。
「あれ?巧?」
同級生のあっくんが僕をみるなり、きょとんとした。
「さっきたくみこなかったっけ」
「来た、さっきのたくみは、教室間違えた待ってる人がいるからってランドセル背負って帰ったんだよな」
心臓のドクドクは減っていたけど、あっくんや教室にいた由美、奈緒の言っていることが嘘にも思えなかった。
しいんとする中、「こんな古い学校だし、不思議なことの1つや2つあるだろ」と言うあっくんの言葉で片付けられた。確かに、不思議で奇妙だし帰ってこれたから構わないはずなのだが、どうしても気に掛かる。
まゆこさんが待っていた、たくみと言う人は、無事に6年2組に帰れたんだろうかと。
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