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 ※    ※    ※  異星体(エイダス)による地球侵略は、ものの5秒で完了した。  ことの起こりは2年前、白昼の出来事だ。  生物とも機械ともつかない円盤と共に突如飛来した彼ら(・・)は、全人類の意識に、同時多発的交信を行った。日絵もリオも日本首相も米国大統領も、立場や身分の区別なく、得体の知れないメッセージを聞いたのだ。 《どうか精神を高潔に保ってほしい。ヒトよ、あなた方がこの光星系において最も知的で優良な生命体だと我々は知っている。あなた方も、自らの種の希少さを理解すべきだ。我々は、ヒト同士の争いを望まない。自らを滅びに追いやる愚行を、選択しないでほしい。この遭遇が我ら双方にとって、有益であらんことを》  異生体は自らを、『思考の種族』と呼ぶ。  精神だけの模糊とした存在である彼らは、高次知的生命の脳に憑依する事で肉体を得、意のままに操る。  既存の兵器など、幽霊のような相手にとってなんの意味もなさない。抵抗手段を見いだせずに泡を食っているうち、主要各国の首脳部が真っ先に乗っ取られ、ありとあらゆる武力装置はたちどころに機能停止へと追いやられてしまう。かくして地球は呆気ないほどに容易く陥落し、宇宙人の手に渡される運びとなった。  反旗が上がったのも最初のうちだけ。  敵対勢力とみなされれば脳を乗っ取られてしまうのだから、戦おうとする方が馬鹿らしいというものだ。  何より戦意を殺いだのは、侵略者の統治が皮肉にも完璧だった事実だろう。各国指導者に寄生した彼らは理性的かつ合理的な判断で法律を整備し、無駄な争い事を許さなかった。宿主の情報を吸収して幾通りにも性質を変える彼らは、人類史を貪欲に学び、政治上の問題点や矛盾点を徹底的に追求して分析していった。  結果として犯罪数は激減し、戦争の火種は生まれる前に一掃される平和な理想社会が実現したのである。侵略されたとはいえ人民は何を強制されるでもなく、以前と変わらぬ、むしろ快適な環境を享受している。  敗北者達は、自問自答した。自分達が国を、地球を奪還しても、今以上に真っ当な世が築けるだろうか。  そうして歳月は流れ、非日常もやがて日常として、残された人々に無し崩し的に受け入れられていった。
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