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「ムカつくムカつくムカつく。
死ねシネ死ね、あのクソメガネザル」
「も~落ち着きなってば、リオ~」
「そうそう、気にしちゃダメだよ。
あともうちょっと、我慢すればいいだけじゃんか」
リオ達は今、礼拝堂にいた。日絵や三人組の通う、叡知大学附属女子中学校は、都内有数のミッション系進学校である。ゆえに朝と放課後には、この場に全校生徒が集められて、祈りの儀式が執り行われるのだ。
「思い出させんなっての、殺すぞ」
祝詞と聖歌に満たされる神聖な空間に不釣り合いな殺し文句でもって、リオは、手下の身をすくませた。
「アナタたちー! 私語は厳禁デスよー!」
すると途端に、生徒達の正面に位置するステージ上から、やたらと若いシスターが高い声を張り上げる。
名を麿谷 マルゲリータという。
若干18歳にして、学生寮の隣にある女子修道院の院長に着任したという女性だ。それだけでも異例中の異例の存在ではあったが、もう一つの理由から、学園屈指の要注意危険人物としても語り草になっている。
「ちょっとパードレ! 中止、礼拝中止デス!」
ブロンドの長髪をかきあげながら、説教台で教典を読み上げる神父に対して、滅茶苦茶な事を命令した。さらに驚く事に、神父は無言で本を閉じると、即座に台座を降りて麿谷に空け渡してしまったではないか。
「そこの三人! 麿チャン聞きマシタ!
今、誰かの死を願いましたデスね?」
天井のステンドグラスから射す光明をライトみたく浴びるシスターは、群集の中から三人を名指しする。
「よいでスかー?
罪深き邪念で教会を侮辱する者には、天罰がくだるのデス! アナタ達、あとで懺悔室行きデースッ!」
どちらかといえば、独断で儀式を取りやめてしまう方がよっぽど罰当たりな行為なのだが、誰一人として麿谷の横暴に対して逆らおうとせず、神父をはじめ、老齢のシスター達もみんな揃って建物を出てしまう。
「ねえなんか、やばくない?」
「どうしようこれ、どうしよう~」
リオの取り巻き女子二人が震えおののく。
他の生徒や教師陣も、にわかにどよめく。
時に理事長の方針にも口を挟む麿谷がどんな権限を持つのか、目に余る振る舞いを繰り返してもなぜ処罰されぬのかは、生徒の知るところではない。だがその存在には、決まって黒い噂がつきまとう。彼女に意見した教員が翌日、飛び降り自殺を図ったという話や、素行の悪い生徒が懺悔室に呼ばれた直後、別人みたく大人しくなったという話。しまいには、人を洗脳する催眠術を使うなどという馬鹿げた噂も流れる始末だ。
「いや、考えようによっちゃこれってチャンスかも」
誰もが混乱する中でただ一人、湯田 リオは邪悪な笑みを刻んで、口角をピクピクとひきつらせていた。
「……うまく立ち回ればさ、
古鳥の奴にも地獄見せてやれるかもじゃん?」
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