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それから約2週間、就活とかで色々忙しいらしくて、久しぶりに一緒のバイトになった。
「先輩、なんすか。この前の写真。」
「え?」
「いや、あいつと2人で撮ってましたよね。写真嫌いじゃなかったんすか。」
「ああ、あれ。無理やり撮らせたよ。一緒に撮りましょうとか向こうから言う訳ないやん。」
それを聞くと思いのほか、ウケたのか、アハハと大きな声で笑っていた。
「じゃあ、今日も撮りますか。」
何度撮ってもやっぱり慣れない。いつになったら、この行事が終わるんだろうか。
「もう、やっぱり写真イヤなの?後輩たちも困ってるから、あきらめて入りなよ。」
久しぶりにシフトがかぶった、4年生の女友達があきれた顔で僕の方を見る。
「ブスだから、写真がイヤなんて女々しい、もはやめんどくさいよ。そもそもブスじゃないって、何回も言ってるじゃない。」
うう、そう言ってくれるのはありがたいけど・・・なんで、このバイト、男の子も女の子も美形ぞろいなんだよ!
「ったく、しゃーないな。」
「へ?」
突然、グラリと体が右に傾く。僕は突然のことに頭が真っ白になった。
彼が、僕の肩を自分の方に抱き寄せていた。ちょうど2週間前、僕が2年生のイケメン君にしてたみたいに。いつもハンドルを握ってる手で。おでんの器を抱えているのと同じ手で。
「や、やめろって。」
嬉しいよりも恥ずかしい方が勝ってしまった。僕は、体を捻って彼の腕から逃れようとした。
「ほら、逃げんなし。」
「うるさい。」
離れようとしても、無理やり引き戻してくる。当たり前だけど、俺よりも力が強い。まあ当然だけど。向こうは引退したとはいえ、運動部出身だし、僕はしょせん走ることと縄跳びしかできない、インドア派だから。家族で運動公園に行っても一人で車の中で本読んでる引きこもりだから。
「あーもうラチあかないから、そのまま撮っちゃうよ。」
後方でくんづほぐれつしている僕らをほったらかしにして、パシャパシャと画面をタッチしていく。あーもう!!こんな時くらい、素直に写真映ればいいのに。僕って本当に大人げないよ。後輩からも舐められるし。
「今日もお疲れ様でーす。」
あれ、写真撮り終わったのに、まだ放してくれないんだけど。彼の大きな手が僕の肩をぎゅっと掴んで、写真を持ってる僕の友達にこう話しかけていた。
「もう一枚お願いしていいですか?」
「え、いいけど。」
「先輩と二人で撮ってください。」
彼の腕が僕の反対側の肩を掴んで、さっきよりもきつく引き寄せてくる。僕は抵抗することを止めて、にっこりピースサインを作った。恥ずかしかったけど、すごく嬉しかった。体温も感じるし、腕にも胸にもほどよく筋肉がついてるのが分かる。ダウンのジャケットを通して、僕の体の鼓動が伝わってしまうんじゃないかと考えると、ますますドキドキした。それでも、僕の肩と背中を丸ごと支えてくれる腕が逞しくて、全部受け止めてくれるような気がして、すごく安心した。
僕は、ブツブツはもう無くなったけど、相変わらずの不細工で、精一杯の笑顔を作った。隣にいる彼も僕が大好きな子犬みたいな笑顔を向けているはずだから。
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