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一
漆黒の闇の中にいる。まるで狭い箱の中にでも入っているような気分だ。
――圧迫を感じる場所。
いつからここにいるのだろう。人の声がきこえている。
――その声は、まるで水の中できいているみたいに、遠くからきこえている。
眠っているのだろうか。口の中に粘り気がある。
――やはり、眠っていたようだ。若いときと違って寝ている間に雑菌、その他もろもろが増殖して口の中が粘ついた状態になる。――歯磨きのとき、餌付く原因にもなっている。
尿意は、
――尿意は、もよおしてこなかった。
ふだんなら目が覚めて、いちばん最初に活動を開始するのは膀胱だ。いつもそれをやり過ごして二度寝と決め込むのが、おれのふだんの心がけとしている。
≪なんだか、くさいなぁ……?≫
不快なにおいがする。煙のにおいだ。のどがいがらっぽくなって、これはむせるなと思ったが、不思議と咳込むことはない。
ここで違和感。――胸やのどが動かない。
鼻孔に、
――鼻の穴に空気が出入りする気配がない。鼻が詰まっているのか。風邪をひいてしまったのかもしれない。
胸もとのあたり、
――と、ふともものあたりがみょうにすうすうする。……まてよ。
布団は、
――布団はどうしたんだ。ベッドで寝ているときにあるべき重みがなく、体が無防備に晒されているような感覚。肌にある感触では、薄い布きれをまとっているような。
急に明るくなった。と、思ったら目の前が真っ白になった。
――明るいなんてものじゃない。まるで太陽を直接見たときのようなまぶしさで、まぶたに力がはいる。
――はいる。が、目が閉じない。頬や口もと、胸のあたりにも違和感を感じる。
眼前がふと暗くなる。
――光と自分の間になにかが割り込んだもよう。
ききとれない大声。
――続く大声の後半で悲鳴とわかる。
目の前でなにかが乱暴に叩きつけられる音。
そして……また、暗闇。
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