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 漆黒の闇の中にいる。まるで狭い箱の中にでも入っているような気分だ。 ――圧迫を感じる場所。  いつからここにいるのだろう。人の声がきこえている。 ――その声は、まるで水の中できいているみたいに、遠くからきこえている。  眠っているのだろうか。口の中に粘り気がある。 ――やはり、眠っていたようだ。若いときと違って寝ている間に雑菌、その他もろもろが増殖して口の中が粘ついた状態になる。――歯磨きのとき、餌付く原因にもなっている。  尿意は、 ――尿意は、もよおしてこなかった。  ふだんなら目が覚めて、いちばん最初に活動を開始するのは膀胱(ぼうこう)だ。いつもそれをやり過ごして二度寝と決め込むのが、おれのふだんの心がけとしている。 ≪なんだか、くさいなぁ……?≫  不快なにおいがする。煙のにおいだ。のどがいがらっぽくなって、これはむせるなと思ったが、不思議と咳込むことはない。  ここで違和感。――胸やのどが動かない。  鼻孔に、 ――鼻の穴に空気が出入りする気配がない。鼻が詰まっているのか。風邪をひいてしまったのかもしれない。  胸もとのあたり、 ――と、ふともものあたりがみょうにすうすうする。……まてよ。  布団は、 ――布団はどうしたんだ。ベッドで寝ているときにあるべき重みがなく、体が無防備に(さら)されているような感覚。肌にある感触では、薄い布きれをまとっているような。  急に明るくなった。と、思ったら目の前が真っ白になった。 ――明るいなんてものじゃない。まるで太陽を直接見たときのようなまぶしさで、まぶたに力がはいる。 ――はいる。が、目が閉じない。頬や口もと、胸のあたりにも違和感を感じる。  眼前がふと暗くなる。 ――光と自分の間になにかが割り込んだもよう。  ききとれない大声。 ――続く大声の後半で悲鳴とわかる。  目の前でなにかが乱暴に叩きつけられる音。  そして……また、暗闇。
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