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二
「ヒィーッ! こ、この子、い、生きてるわ!」
この子という呼び方で、四つ歳上の姉の声だとわかる。
「喜佐子お義姉さん。どうしたんですか?」と男の声。
ふたたび光が射し込む。
――そう、まさしく射し込んでいる様子。隙間から漏れ射る光があり、その光のなかでホコリが漂っているのが見えている。
覗き込んでいる人物がいる。
――男の声の主の顔だ。嫌悪感がありありとわかる顔をしておれを見下ろしている。
――無礼な奴だ。
怒りにも似た感情が込みあがる。
――こいつの顔を見るといつもこうなる。
おれの義弟だった男。こどもをひとり産んだ妹と別れた無責任な男。
――マサヒロだ。
と、鈍痛がおれの後頭部にあらわれた。こわばっていたマサヒロの顔が安堵にかわり、ひっこんでいった。
おれの目の前には、ほぼ正方形の小窓があり、まだなにやら小窓の外から言い争いのような会話がきこえてくる。
後頭部の痛みが前のほうにまでひろがってきた。思考が鈍って考えるのもだるくなってくる……。
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