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――仏さま。――おれは死んだようだ。  この小窓に、木の蓋、すうすうする着物は――きっと白装束だ。  おれは棺桶の中に入れられているんだ。煙くさいにおいは線香のにおいで、みんなが着ている服は喪服だ。 ――体が動かない。 ≪そりゃそうだ≫  おれは死んでいるんだから。……まてよ。  おれはどうして死んだんだ? 事故か? 病気か? 地球規模の天変地異か?  ――いや、それなら人類みんな絶滅しているから、あいつらが喪服でおれの前に姿をあらわすことなどできないはずだ。  と、また後頭部に鈍痛にも似た痛みが出てきた。 ――これが死因なのだろうか? 脳梗塞(のうこうそく)? 脳溢血(のういっけつ)? これらがどんな症状かは、よくわからんが、突然死の原因としてよくきく言葉だ。 ――で、死んだのか? ……思い出せない。気がついたらこの状態で、死んだときの記憶がまったく出てこない。 「とにかく、お通夜の準備と、お葬式のときのご焼香で呼びだす順番を決めなきゃならないでしょ」と姉が言った。「それと弔辞は誰が読むの?」 「――ああ、それはわたしだ」と幹夫義兄さん。「まだ、話す内容を考えていなかったな――」 「沙夜子さんは、<四駒寿司>に電話して、お寿司を頼んどいてちょうだいな。エリコはお酒を買いに行ってきてね」  「いいよ! おねえちゃん、こどもを見といてね」 「ちょっとぉ! 由香子! ヨシノブ! ヨウスケちゃんといっしょに遊んであげなさいね!」 「はあ~い」「はあ~い」  なんか、そこらじゅうがバタバタして準備が着々と進んでいる。 ≪おれの葬式だ。まちがいなく、おれは死んだんだ≫ 
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