三章 勇者ご一行の旅

12/21
前へ
/484ページ
次へ
 ミノタウルスはまだ動かない。ターン制もあるけど、こいつ、もしかしたら、かなり素早さの数値が低い。  僕はちょっと腕ならしで、破魔の剣をふりかざしてみた。なんにも起こらない。  三村くんが言った。 「あっ、あかん。あかん。装備品の魔法使うときは、その装備品の正式名称を言わな」 「えっ? そうなの?」 「破魔の剣〜って言うんや」 「わかった」  あらためて。 「破魔の剣〜」  あっ、出た。出た。  小さな炎がミノタウルスの頭上に降った。  大きさからいうと、火属性の一番低位の魔法って感じだな。  たぶん、蘭さんの『燃えろ〜(^_^*)』と同じくらいの威力。  ダメージは少なそうだ。遠距離から攻撃できるのは利点だけど。 「かーくん。ミノタウルスはHPが少なくなるほど、クリティカル率が上がるんです。だから、最初のうちは近距離攻撃して、ダメージが見えてきたら遠ざかって遠距離攻撃に切りかえましょう」  さすが、勇者。リーダー。  僕は蘭さんの命令に従うことにした。  あっ、これって、あのゲームの“作戦変更”だ。“命令する”ってやつだな。  そう言ってるうちにも、ミノタウルスのターンだ。ミノタウルスは大きな斧をふりかざして、ダダーッとつっこんでくる。 「わあッ!」  僕はあわてて皮の盾を前につきだす。皮の盾がザックリ割れてしまった。  えっ? この世界って武器の耐久性が設定されてるのか? 「かーくん。危ない!」  蘭さんが手をひっぱってくれたので、ミノタウルスの斧は盾の表面をすべり、なんとかよけることができた。ミノタウルスの斧はそのまま地面につき刺さる。  三村くんが叫んだ。 「おまえら、どいとれや。攻撃はおれが受けるさかい、HP減ったら治してくれ。ええな?」  見れば、三村くんは鉄の盾を持っている。あれなら、なんとか斧をちょくせつ体で受けることはないだろう。  そうか。僕はプリーストだもんな。  みんなが死なないようにサポートするのが役目なんだ。  冷や汗がよろいの下を流れおちていく。  やっぱり固定のボスは強敵だ。
/484ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加