三章 勇者ご一行の旅

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 一晩中、泣きあかしたんで、僕がそれに気づいたのは、夜明けがたのことだった。  いつのまにか、うたたねしていた。  ——かーくん。かーくん。目をさまして。あなたはレベル15になりました。“小説を書く”が使えるはずですよ。  誰かの声が聞こえた気がした。  眠い目をこじあけ、そっと明け方の薄闇をながめる。  今のはなんだったんだろう?  優しい女の人の声だったような?  蘭さんと三村くんは同じ部屋のそれぞれのベッドのなかで眠ってる。  変だなぁ。空耳だったかな?  なんかスキルを見なさいみたいなことを言われたっけ?  僕はぼんやりしながら、目の前に浮かぶモニターを見た。  スキルの項目の文字が明るくなってる。小説を書く、だ。  そうか。この世界でも僕は小説を書けるようになったのか。  これまでの人生、つらいことも悲しいことも、みんな小説にしてきた。  小説こそ僕の人生。  ほかの人が呼吸をするように、僕には小説を書くことがあたりまえな生命維持活動なんだ。  というわけで、今、マーダー山脈のふもとの小さな村の宿のなかで、僕はこれを書いている。  始まりの街から、ここに到達するまでのことをすべて書ききった。  小説っていうか、どっちかっていうと日記みたいなもんだ。  ちなみにスマホで打ってるんで、早い。早い。ふだんから小説書くのにスマホ使ってるし、めっちゃ早打ちできる。両手打ちだもんねぇ。  でも、最後の最後で、僕は考えた。  ぽよちゃんは蘇生しなかった。  でもこれは小説なんだから。  別に生き返ったっていいじゃないか?  ずっと僕らといっしょに旅をしようよ。  僕は神父さんが蘇生の祈りをしたあとのところからを書きなおす。 *** 「神の御名において、ぽよぽよのぽよちゃんに今一度、生を与えたまえ〜」  チャチャーンチャーンと、お祈りの効果音が鳴り、しばしの時間が経過する。  僕らは待った。  小さな柩のふたが、なかからひらくのを。  やがて、そのときは来た。  ふたがゴトゴトと動くと、元気よく、ぽよぽよのぽよちゃんがとびだしてきた。 「キュイー!」 「ぽよちゃん!」  僕はぽよちゃんのもふもふの体を抱きしめた。  僕らの仲間。  こうして、ぽよちゃんは僕らと旅をすることになった。 ***  書きながら、また涙があふれてきた。  ぽよちゃん。安らかに……。
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