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猫と奥さんの写真が紡ぐ花曇り
猛勉強の末、合格した高校に通わなくなり半年が経つ。一体高校で何をしたかったのか。何を目指したかったのか。高木早苗にはその答えはすでに分からない。高校に足は向けないが制服を身を包み、メイクは完璧にこなし、とりあえず街を歩き、男性に声をかけられるのを待ち伏せている。
獲物は、だらしなく鼻の下を伸ばす男たちの財布。どれだけ労力を使わずに金銭を稼げるか。今の早苗にとっては、生きるための努力に他ならない。どれ程、勉強をこなそうと真面目に生きようとたった一つの濡れ衣で人の生活は反転してしまう。
学年首位の学力にやっかまれたのか、早苗の鞄からクラスメイトの財布が出てきたあの日。早苗の人生は底辺へと走り出した。誰が何のためになど、想像が簡単につく。だが、いくら訴えようとも財布があったのは早苗の鞄であり、更には金銭は抜き取られていた。退学は免れたが犯罪者扱いされてまで学校に通おうとは思えなかった。
母はその晩、涙を流しながら早苗の頬を強く打ち、父はその日から酒に溺れ、教師は口酸っぱく早く謝罪をしろと急き立てる。大人など誰も信用できない。クラスメイトもそうだ。家にも学校にも居場所がなくなった早苗は制服で街を彷徨き声をかけてくる男性に食事を奢らせ、小遣いをもらい、家にも帰らずに幾晩もファミレスやカラオケボックスで夜を明かす。
警察に声をかけられたのも一度や二度ではないが、親も教師をすでに諦めているのか、いつも元の木阿弥となる。
金銭を受け取っても、それは合意であり、金銭を渡した男性を犯罪者にしてしまう行為は早苗も避けている。つまり、ただの家出であるのだから親や教師が匙を投げているならば、早苗の天下でしかなかった。
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