蜘蛛の純粋

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蜘蛛の純粋

私は網であなたを捕まえる。 私から追うようなことはしない。 だって私は怖がりだから。 恥ずかしいから。 だって私は控えめだから。 そんなこともできるはずないの。 だって、 それに私なんて相手にされないと思うから。 あなたは宙をひらひら舞う今をときめく蝶。 私はそんなあなたの天敵だから、 だから私は相手にされないの。 あなたが飛んでる姿を木の枝に張った巣から見て、 それでこんな綺麗な生き方もあると感動して好きになったの。 見ているだけで、 最初は良いと思ったの。 だって私はここでじっと待つしかできない身だったから。 だから諦めようと思ったの。 でも、 やっぱり手に入れたいと思うようになっっちゃったの。 あなたと同じ世界を生きたいと思うようになった。 だから私には無理。 あなたと共に歩むことは無理だから。 あなたを手に入れることでしか、 それは叶えられない儚い夢。 遠い希望。 私も蝶に生まれれば良かった。 私は今更蝶にもなれないし、 もちろんだけど蜘蛛のままあなたを待つ。 蛾でも良い。 蝶じゃなくても良い。 私だって宙を飛ぶ存在になりたかった。 こうやって待ってばかりの生活なんて本当はこりごりなの。 あなたから出向いてくれる、 そんな日を待つばかりの毎日はもうこりごりなの。 私だって、 私から出向くようなことをしたい。 それが無理だから私はあなたを待つことにする。 あなただけを思って、 考えて、 願って待つことにする。 私はあなたを受け止められるように、 大きな大きな網を張る。 そこで安らかに眠れるように。 クッション性とか一緒に居たらどんな感じだろうとかいろいろ考えて、 それで綺麗な巣を作る。 これは恋の巣。 純情な巣。  そして蜘蛛としての罠としての知恵。 それなのにその巣にあなたは来てくれない。 来てほしくないものばかり来る。  かかる獲物を私はイライラしながら食べる。 でも、 それでも来客が居るから綺麗にしておかなきゃって思うでしょ? だからかかった獲物は生きていくために食べる。 綺麗な巣を維持するために食べる。 あなたを待つ覚悟を固めるために食べる。 私の人生ってそれだけのものなのかもしれない。 でもある日、 あなたが来てくれた。 飛べない私とは違って宙を飛んでいるあなた。 羽なんてなくて、 あなたを追えない私。 木の枝に居場所を作るしか方法のない私。 控えめな私の純情。 惨めな私。 可哀想な私。 そんな私のところにあなたは来てくれた。 私の作った網は厳重で頑丈で私の性格と同じでねちっこいから、 一度羽が絡まったら蝶は離れることはできない。 だから私はようやくあなたを手に入れた。 でも、 あなたはこの世の終わりのような顔をして私のことを見てくれない。 ねぇ、 私を見て。 こっちを見て。 私はずっとこうやってあなたを見てきたの。 だからあなたも私を見て。 私は蜘蛛であなたは蝶。 だからそれら二人は常識も通じない。 それでも私は好きになった。 でも、 あなたが好きな気持ちだけは通じて欲しい。 だから怯えないで。 なんでそんなに悲しそうなの? もう飛べなくても私が居れば良いじゃない? 変わりにいろいろな話をしてあげる。 私の体験談なんてつまらないかもしれないけれど…… 私の作った巣では不服だったのかしら? 愛の巣として良くなかったかしら? でも、 私はずっとここで待っていたの。 あなたがくる、 この瞬間をを待っていたの。 私には待つことしかできないから。 でも、 私にだって運は向いてくるのね。 今は本当に幸せよ。 他の獲物みたいに、 あなたを食べるなんてことはしない。 あなたを手に入れれるならそれで良いの。  私はあなたになにもしない。 あなたが何もしてくれないのと同じね。 あなたが何もしてくれなくて良いの。 私もあなたに何もできないのだから。 というか何もしない? のだから。 あなたを巣の玄関先に飾れるのならそれで良いの。 あなたを見世物にしたいの。 他のみんなからこんな綺麗な蝶が巣に居たら羨ましがられるでしょう? だから私はあなたがここに居てくれるだけで十分なの。 幸せアピールができればそれで良いの。 これで他の蜘蛛たちは私のことを一目置く存在として見るわ。 だってこんなにも綺麗な蝶を巣に飾っているのだから。 なんであなたはそんなに悲しそうなのかしら。 もしかしてあの蝶たちの中に好きな蝶でも居たのかしら? なら私が処分してあげる。 綺麗な羽をぐちゃぐちゃにして食べてやる。 私にあなたしか居ないように、 あなたにも私しか居ないって分からせてあげる。 私はこんなにも幸せなのに、 その気持ちがあなたに伝わっていない。 それが辛くて仕方ないの。 あなたもこんな綺麗な巣に捕まって幸せでしょう? こんあに綺麗に巣を作れる蜘蛛なんてなかなか居ないのよ? 花嫁修業じゃないけれど、 小さいときパパとママから巣の作り方を習ったの。 今はもうパパもママも居ないけれど、 今の私にはあなたが居るの。 だからとっても幸せよ? あなたを食べるなんてしないから、 だからそんなにも怯えないでください。 ねぇ、 お願いだから…… 私は自分のことで自慢できることは何一つないけれど、 でもあなたが近くに居てくれるってだけでそれが自慢できること。 あなたのことを好きな理由が、 それだけでは駄目ですか?
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