出目金のときめき

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出目金のときめき

私は前まで普通の金魚だった。 でも今は違うの。 ただの普通の金魚とは違うわ。 私は特別なの。 普通の女じゃないの。 それ以上の価値があるの。 全世界の金魚より、 今の私は美しいの。 とってもとっても特別な金魚なの。 ある日、 私はドラム缶に入れられるときに初めてあなたを見たの。 同じくドラム缶に私を入れられたあなたは、 私のことなんてただの金魚としか思ってないだろうけど、 私は特別な金魚になるためにドラム缶に入れられたの。 私はあなたのために特別になろうとそう感じたわ。 そうあなたのために。 そこで私はびっくりしてしまう。 本当に本当に驚いたの。 あなたが私を水の入ったドラム缶に入れて、 そのドラム缶をドンドン、 ドンドン叩くから。 だからこんなことをされる私は、 飼い主さんに嫌われちゃったかと思ったわ。 私はでもとてもびっくりしたのは事実。 本当に心臓が飛び出るぐらいびっくりしたわ。 だからこんな風に心臓じゃなくて目が飛び出ちゃった。 ドラム缶の中に入っていた私の仲間も一緒。 目がみんな飛び出ちゃった。 それで私は普通の金魚を卒業したの。 これで私は特別な金魚。 誰にとってか? それはあなたにとってが良かった。 そう、これは嫌だと思うけど、 縁日でも絶対すくえない悪質なポイで、 みんなからきっと狙われるそういう金魚よ。 でもね、 私はそんな人たちよりもあなたに狙われたい。 あなたはこれから私は売られるだけだもの。 あなたに一緒に行けるならそれでも良い。 あなたにとって利用価値がある私なら、 私生きていけるって思えるから。 だから、 あなたと一緒に居るならそれで良いの。 それが私の幸せにもなるの。 だからね、 離れ離れになる前に私の願いを届けたい。 大きく飛び出した目で、 あなたを見つめたいの。  そして同じようにあなたも私を見て。 あなたと私は見つめ合いたいの。 あなたがドラム缶で叩いて大きくなった目。 それはあなたと見つめ合うために大きくなったのだと思うの。 だから私を見て。 私を見捨てないで。 一緒に大きくなった目で見つめ合いましょう。 でもあなたは分かってくれない。 あなたは他の金魚を見る時と同じ目で私を見る。 ここに居るみんなは出目金だから。 それは私は特別な存在じゃないから。 私にとってはあなたは特別だけど、 あなたにとって私は特別じゃない。 ただの近所は卒業したけれど、 普通の出目金。 私のことを特別って思ってくれる人は、 きっと夏まつりの縁日の金魚すくいで私を狙う馬鹿ばかり。 あなたみたいに人に私を特別って思ってもらいたい。 あなたに特別って思ってもらいたい。 私、 頑張るね。 だから私はあなたに私の目玉を送るわ。 あなたのことが視覚からなくなるのは悲しいけれど、 私を特別にしてくれたあなたにできることってこれくらいだもの。 ドラム缶に入れられたときから、 そのとき私はあなたを見て、 それからあなたのことしか考えられない。 私は目玉をえぐり出す。 それがきっと一緒に居ることができる一番良い方法だと思うから。 あなたのそばに私の目があるのなら、 私の視覚からあなたが居なくなっても、 きっと寂しくない。 それにね、 私思うのよ。 あなたのそばに体の一部を置けるなら、 それで良いかなって。 それってそばに居ることができるってことでしょ? それならば、 私はきっと幸せものだ。 昔の花魁も小指を送ったりしたって言うじゃない? だから私は特別になった目玉をあなたに送るの。 そうすれば、 永遠の愛が誓えるわ。 それに出目金じゃなくなった私は世間的には希少価値が少ない。 だから、 あなたのそば以外に居るところってなくなるわ。 なら、 あなたが私の面倒を見てくれるのよね? 目の見えない私のために、 あなたの人生を犠牲にできるのよね? 私はあなたを独占できる。 それなら、 何も見えない世界でも、 あなただけ見て生きていけるような気がするの。 気がするだけかもしれないけれど、 でもそんな気がするの。 目玉を渡したあなたは驚いたけれど、 でもこれが私の意志。 私は何故か捨てられる。 目玉のない出目金はいらないって飼い主さんにも言われるし、 あなたも不気味そうに私を見てるのを感じちゃった。 でも、 これは私はあなたと一緒に居たいと思ったからやったこと。 後悔なんてしていない。 例え今のようにあなたに見捨てられたとしても。
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