キジも鳴かずば撃たれまいに……

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 そのあと、本田にまた送ってもらい、唯と蘇芳はあのアパートへと戻った。  よく考えたら、この人は付いてくる必要はなかったのでは、と当然のように上がり込む蘇芳を見ながら思ったが、いつぞやのケーキの恩もあるし。  もしかしたら、この人のおかげで、翔太との結婚も流れてくれるかもしれないので、とりあえず、追い返すのも悪い気がして上がってもらった。  じゃあ、翔太の代わりに、蘇芳と結婚しろと言われたら、迷うところなのだが。  もう珈琲は飲み飽きたので、二人で普通の緑茶を飲む。  これもまた、カフェインの取りすぎで眠れなくなりそうだ、と思っていると、飲んで一息ついた蘇芳が、 「……落ち着くな」 と呟いていた。  不本意ながら自分も落ち着く。  今までが騒々しかったからかもしれないが。 「結婚話はこのまま流れるかもしれんな、よかったな」 と言う蘇芳に、 「まだわかりませんけどね」 と言うと、 「なんだ? あの訳のわからない男と結婚したかったのか?」 と言ってくる。  いや、訳がわからないのは貴方も一緒ですけどね……。
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