その恋、記憶にございませんっ！

キジも鳴かずば撃たれまいに……

「いや、申し訳ない」
と会長室を出たあと、社長に謝られた。

「親父もやっぱり、翔太を唯さんの相手にというのは、ちょっと不安があったみたいで。

　慎吾があんなことを言い出したから、これ、幸いと思ったみたいなんだよね。

　それに、慎吾が三上さんを尊敬している、というのは本当のようだよ。

　それと――

　翔太に負けずに頑張れと焚きつけたのも三上さんのようだね」
と困った顔をして笑う。

「……帰って殴っておきます」
と言うと、

「まあ、ほどほどに。
　ほんとに別に唯さんの好きな方でいいから」

　じゃあ、ともうこれ以上この件に関わりたくないようで、社長は秘書に命じ、社外に出る手配をし始めた。

「ちょっと伯父さんっ」
と翔太がそのあとをつけていく。

　なんか……、面倒かけてすみません、と思いながら、唯は残った慎吾の顔を見上げた。

「ごめんね。
　こんなややこしいことになって」
と慎吾はようやくいつもの控えめな顔に戻り、言ってきた。