インフルエンサーの友人

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 私は、大学の頃親しかった友人に、結婚式の披露宴の招待状を出した。  しかし、彼女からの返事は――、「不参加」に丸。  大学を卒業してから十年以上経つ。卒業してから数年は顔を合わせていたけど、もう五年以上は顔を合わせてなかった。 (仕方ないかぁ……)  彼女の返事を最初見た時、私はそう思った。けど、久し振りに会ってみたい気がしてきた。  大学の頃、彼女はとても魅力的な存在だった。才色兼備で、人に優しくフレンドリー。  彼女はある日、写真にはまった。綺麗な写真をSNSにアップし、反響がもらえるのが楽しいと。  当時、私も写真を趣味にしていた。だから、二人で様々な撮り方を研究したり、撮影スポットを探したりと、楽しんだものだった……。  彼女は、大学卒業後はSNSで稼ぐと宣言し、それを実行した。  フォロワーは一万以上。華やかそうな生活を感じさせる彼女の写真は、私の心を彼女から離れさせる。  いつしか、私は彼女と会わなくなり、今日に至る。  ――だが、彼女のことが気になる。気になるというより、私は今、彼女を心配している。  彼女のSNSの更新が数年前から、ぱたりと止まっているのだ。  私は思い切って連絡してみた。「会いたい」と。  そしたら、彼女の実家に来るようにとの返事をもらい、私は彼女の家に行くことになった。  長らく会ってない友人と会うのに、緊張しながら、彼女の実家のインターホンを押す。 「久し振りね、こんにちは」  戸を開け、そう昔と変わらず挨拶してきたのは、彼女の母親。 「あの子は、中で待ってるわ。……けど、驚かないであげてね」  意味深なことを告げられ、より緊張が高まるりつつ、中に入る。そこには――  そこには、彼女の面影を多少残した、老婆のようにうなだれた者が座っていた。 「……さっちゃん?」  私は久し振りに彼女をあだ名で呼んだ。 「あ、まぁこ!?」  私を呼び返す彼女は、空を見る感じで―― 「この子、目がね……」  母親が、気づいた私に、悲しそうに教える。 「スマホの見すぎで白内障になっちゃったの。バカよね」  さっちゃんは、そう、わざと笑おうと、笑わせようとしていた。 「頭いいのに、そんなことわからなかったの?」  私も笑う。変わらない、さっちゃんの人への優しさに、涙をこらえそうになりながら。  その後、彼女は笑い半分に、彼女の転落人生を話してくれた。    インフルエンサーになった彼女は、もっと良い写真を撮りたいと――、 いつしか借金をし、自分の体を細く見せるために拒食症になり、栄養不足で骨粗鬆症や脱毛、様々な感染にかかったりして体がボロボロになり、やがて精神も病み――、引きこもる。が、ネットでどうにか稼ごうと頑張り、ブルーライト浴びまくって、気づいた時には手遅れだったらしい……。 「頑張り過ぎちゃった。私、中途半端にやるの嫌だからさ」  さっちゃんはまた苦笑いしている。 「うん。ちょっと今回は頑張り過ぎたね」 私も冗談混じりに返す。 「そうだから、私、まぁこの結婚式、行けないの。ちょっと、筋力も衰えてて動けないのよね。ごめんね、そして、おめでとう」 「ありがとう……」  少し、しんみりとした空気が流れる。が、「あ!」と、さっちゃんがその空気を、破る。 「式が終わったら、話でも聞かせてよ。私、引きこもってて暇だからさ。 あ、写真とか、わざわざ持ってこなくていいよ?」 「うん。お気遣いどうも。たくさん写真撮ってくるから、待っててね」  さっちゃんの冗談に、私は冗談で返し、家を出た。  空を見上げた私の目から一筋流れる。楽しく、笑顔で出たはずなのに……と、拭う。  あんだけ写真好きだった彼女は、もう写真を撮れないし、見れない。それが、かわいそうだと思うからだろうか。  いや、きっと、嬉し涙。  インフルエンサーになった彼女は、違う世界の人になったと思っていた。だけど、久し振りに会った彼女は変わっていなかった。心が昔のままだった。  昔と変わらない彼女に会えたことが、嬉しかったのだ。
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