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なさぬ仲だけど
福々しい顔のお母さんと七五三のお祝いで着物を着ている女の子
3歳の女の子はアカネ、嬉しそうに着物や髪飾りを触っていた
そこにお父さんはいない
はい、撮るよ
ハイチーズ!
パシャッ
まだスマホもデジカメもない時代
親戚の叔父さんがカメラを持っていたので駆けつけて撮ってくれたのだ
アカネは、はにかみながら
それでも嬉しそうにカメラに向かって笑顔を見せていた
お母さんは太平洋のような穏やかでゆったりとした微笑みを浮かべている
なんて幸せそうなんだ
アカネから見ると叔父にあたるこの男は昭雄、この母親の兄であった
誰でも知っている安定した企業に勤めているためカメラがまだ一般家庭にさほど普及していないこの時代にも手にすることが出来ていた
この昭雄のうちには子どもはいない
望まなかったわけではなく授からなかったのだ
だから妻の佐知子もさぞかしアカネを可愛がってくれているかと思えばその反対だった
写真を撮ってあげに行って来るよと昭雄が告げると佐知子は急に機嫌が悪くなる
子どもが出来ない当て付けだと思ってしまう
テレビに子どもが出て来てなんの気無しに「かわいいね」なんて言おうものなら泣き出す始末だ
もう、かなりの被害妄想気味であった
でもまだ結婚して5年
まだまだこれからチャンスはいくらでもあるだろうと他人は何も知らずに言った
でも絶対にできないのだ
みんなには、話していない
佐知子は子宮ガンになってしまい命を守るためには全摘しか道はなかった
昭雄はとっくに子どもは諦めていて、ただ佐知子が再発だけはしないで欲しいと願っていた
でも佐知子は若いだけに友達が妊娠したとかふたり目ができたなどと聞くと落ち込むばかりだった
わかるだけに昭雄も辛かったが普通にしているしかなかった
それから2年ばかり経ったある日、アカネの母親と昭雄が出掛けなくてはならなくなり
仕方なくアカネは佐知子が預かることになった
佐知子は初めて一人でアカネの子守をするのだ
だが昭雄たちは車で出て行ったが夜になっても戻らない
翌朝、車が道路脇から川に転落しているのが発見された
二人とも即死だった
実況見分ではすれ違いざまにハンドル操作を誤ったのだろうとのことだった
二人が亡くなって、アカネはほかに身寄りも無かったために佐知子が引き取ることになった
アカネは母親を恋しがってよく泣いた
佐知子は不憫に思い自分で育てようと思うようになっていた
おばちゃん、おばちゃんと言っていつも寄って来ては甘えてくる
自分の子だったら、こんなんだったのかしら
いつしか、母性が目覚めてくるのが佐知子にもわかった
可愛いもんね
子どもは可愛いもんだわね
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