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げっ、頭いいのかよ。そんで、年下かよ。
そんなに優秀なのに、ひとの傘パクるんじゃねーよ。
講義の間も、わたしは頭の中でずっと毒づいていた。
数学の公式も世界史の年号も、まるで頭に入ってこない。
翌週の予備校の日は、朝から篠突く雨だった。
今日こそ、千種公仁と決着をつけてやる。傘を盗まれたのと同じ月曜日だから、あいつも講座が入っているはずだ。
また馬鹿正直にあの傘を持ってくればいいのだけれど。
放課後になるや否や、わたしは掃除当番もサボって予備校へ駆けつけた。
――よし。
現役生としては、誰より早く到着したはずだ。
わたしは傘立ての横に仁王立ちになって、来校者全員をチェックした。特に、男子を。
「いつか、何やってんの? 中、入らないの?」
「うん……ちょっと」
奇異の目で見てくる友達に曖昧な返事をしたとき、視界の奥に浅葱色が見えた。
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