予備校前で会いましょう

6/9
前へ
/9ページ
次へ
雨の中を、ゆっくりと近づいてくる浅葱色と、東高の制服。 わたしは武者震いした。 傘は、予想よりずっと高い位置に差しかけられている。 年下と知ってなんとなく自分より背が低いひとをイメージしていたけど、相手は男子なのだ。さもありなん。 千種公仁は、耳にイヤホンを差していた。白いコードがシャープな顎の前に垂れている。 校舎の入口まで来ると、ちらりとこちらを一瞥(いちべつ)し、わたしの傘を畳んでぶるぶる振り始めた。 そのイヤホンを耳からむしり取りたい衝動に駆られながら、わたしは腹に力を入れて声を出した。 「……ちょっと」 千種公仁は動きを止めてこちらを見た。 耳からイヤホンを外す緩慢(かんまん)な手つきを、わたしは怒りに震えながら見ていた。 体中から強気をかき集め、憎き相手を見据える。 「それ、わたしの傘なんですけど」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加