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「まさか、マジで忘れてんのかよ」
千種公仁は深々と溜息をつきながら、呆れたように笑った。
げ、笑うとちょっとかっこいい。こんな状況なのに、わたしはそんなことを思ってしまう。
「あのな、去年あんたがここで盗んだんでしょうが、俺の傘を。違う?」
わたしが……?
「俺、去年もここに高1期末対策受けに来たんだよ。そんとき、この傘がここでなくなったわけ。あんたも去年、ここ来てたんじゃない? 違う?」
「あっ――」
思わず大声が出た。
そうだった。
去年の今頃、千鳥格子の傘を盗まれたわたしは、失意のあまりやけくそになって他人の傘を持って帰ったのだった。
素敵な浅葱色の傘を――。
いつのまにわたしはそれを、最初から自分のものだったように錯覚していたのだろう?
なんて都合のいい記憶の上書きなのだろう。
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