俺と間男と昇り龍②

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俺と間男と昇り龍②

今更、冗談と言ってくることなく「いいの」と確認もとらずに、布擦れの音を立てて、男は遠慮なく脇に剥き出しのそれを差しこんできた。気色悪かった。 男の股間を触るのにさえ抵抗があるのに、脇に当てられては、生々しい熱と匂いが顔にかかるようで、胸が悪くなる。脇のあたりの皮膚が薄いせいか、固いもので摩擦されると、こそがしいどころでなく、血が滲みそうに痛くて、俺は脇から目をそらして歯を食いしばった。 気持ちいいわけがなかったものの、快感を覚えるほうが困るから、目を瞑って折檻を受けているイメージを浮かべる。そうやって何とか正気を保とうとする俺を尻目に、男は肩に手をかけて脇でひたすら、しこしこして、少しも経たずに「は、はっ」と熱く息を切らすようになった。早すぎね?早漏か?と胸の内で笑いつつ、早く終わらせてくれるなら望むところで、ほんの少しだけど、俺は腕を摺り寄せた。 「ああ!あん!」 とたんに、肩に爪を立てられ、甲高く鳴かれた。ええ!?とぎょっとして肩を跳ねたら、その振動も感じるらしく「はあ・・・あん」と悩ましげに喘ぎを漏らしている。 再三言う。俺は察しがいい。 部屋に入って、ベッドと周辺に大人のおもちゃが散らばっているのを見て、違和感を覚えた。これまで何度かアプローチしてきたのを、のらりくらりと断りつづけた彼女が、そんなに性的に開放的なタイプには思えなかった。 俺には見せたくない、裏の顔があったとも考えられたものの、この男の反応からして、新たな可能性に気づかされた。彼女は大人のおもちゃで弄ばれるのではなく、弄ぶほうを好むのかもしれない、と。 試しに腕で竿を擦って、脇も押し付けるようにしたら「あ、あ、やだぁ!」とAVの女優みたいに大袈裟なほど喘ぎやがる。男相手だから興奮はしなかったものの、真っ赤にした顔を横に振るさまを見上げたなら「マジ、笑える」と面白くなってきて、腕と脇でしきりに擦ったり絞めつけてやったりした。 「あ、あん、やあ、んあぁ!やあぁ、あ、あん、やあって・・・!」 いやいや言いながら、勃起を張りつめさせ、ただ、脇から抜こうとする。人が折角、脇を貸してやっているのだから「最後までやれ」「早く果てろ」と脇と腕で絞めつけ留めたなら、もう片手の人差し指を、先の割れ目に食いこませた。くちゅ、と水音が立ったのに、にやりとして、掻きだすように指を小刻みに動かす。 「はあぁん!あ、あ、ん、あん、や、やあ、男なんか、ああぁ、やだあ!」 こちらにすれば、一気に終わらせなかったのだけど、逃げるためか、力が入らなくなったのか、男が膝から崩れ落ちて、脇からも抜けだして、背後でへたりこんだようだった。イかせることはできずとも、浮気現場に踏みこまれておきながら他人事のように飄々としていた男を動転させられたことで、すこしは溜飲が下がり、おもむろに立ち上がって、勝ち誇ったように笑い、見下ろした。 「お前、男のくせに、AV女優顔負けに喘いで、よくそれで女を満足させられるな?」 とどめの一発とばかりに、嫌みをかます。先走りを辺りに散らし、閉じた太ももから、まだまだ元気なそれを覗かせながら、うな垂れ、呼吸するのが精いっぱいのように肩を上下させている。かに見せかけて、「ふ」と聞こえよがしに息を吹いて「だった、ら、あんたは、彼女を、満足、させられた、のか」と笑いを含ませ、返してきた。 俺が彼女とまだやっていないことを知っているのか、見抜いてかの皮肉なのだろう。人は本当に怒ると、むしろ、すうっと心臓が冷たくなるらしい。 声を荒げるどころか黙って俺は、男の肩に手をかけた。怒りがこもった熱や力みが感じられなかったからだろう、男は驚いたように顔を上げて、対して俺は眉も動かさずに、床に上半身を押し倒した。 「か、はっ」と男が背中に受けた衝撃に呻いているうちに、まだベッドで振動している電マを手に取り、先走りに濡れる先っぽにいきなり当ててやった。「あああぁん!あ、や、激し、あん、あ、あん、や!だ、だめ、激し、の!」とぐちゃぐちゃと先っぽから水音を立てて先走りを飛び散らし、床にのた打つ男を、白けたように見つめる。 「人肌でないとだめ」と言ったのは本当だったのだなと、白々しく思いながら、普通ならとっくに達している状態なところ、執拗に全体的に電マを擦りつけた。あんあんと、背中を跳ねて突きだしている胸の突起が起っているのに気づいて、ちょうど、もう片手の傍にあったローターを取り、スイッチを入れて胸に持っていく。 胸の突起にブウウウンという振動を押し当てると「ひゃあ、ん!」と涎と先走りを盛大に散らすも「だめ、て!二つ、もぉ、俺、ああ、あん、もう、変、なっちゃあ、あぁ」とやっぱり、達しない。イかせないまま、大人のおもちゃで弄びつづける仕打ちをしたいのは、やまやまなれど「や」のつく人が迫ってきているかもしれない状況だ。 だったら、手で扱いて、さっさとイかせるのが得策だろう。けど、俺の気が済まない。早くイかせてやるにしろ、そんじゃそこらのことでは動じない、もっこり間男糞野郎がもっとも屈辱に思うような方法を取らねば。 「男にイかされるのはいや」と言っているなら、本来、突っこんで達する男として、男に突っこまれて達することは、何より我慢ならないはず。ただ、残念ながら、冷たい怒りを孕んでいる体は、微塵にも興奮せず反応もしていなく、俺のマグナムをくれてやることはできない。 俺だって、怒りを向ける男にくれてやりたくなかったし、ぶっちゃけ、初めてで、イかせてやれる自信はない。指だと、もっと知識やテクニックがいりそうで、難しいだろう。 もっこり間男糞野郎に一泡吹かせるのは無理かと、諦めかけたとき、全く関係ないような、酔っ払いの友人の話を思いだした。風俗に行った時のこと。よく通っていた友人が普通のプレイには飽きたと、相手にこぼしたところ「じゃあ、お尻を舐めてあげようか」と言われたらしい。 申し出を断ると気分が盛り下がるかもしれないと友人は考え、乗り気でないままに舐めてもらったものの、初めてにして、前を触らないで達してしまったのだという。以来、友人は怖くなって、風俗に行かなくなったのだとか。 サクランボの軸を結べる俺の舌遣いなら、もしかしたらと思い、早速、電マとローターをスイッチを切らずに放って、イけない快楽地獄で舌を出しながら体を痺れさせている男の体をひっくり返した。「へ・・・あ?」と戸惑ったような声を漏らしつつ、されるがまま、床にうつ伏せになった体の腰だけ持ち上げられて「あ!」と尻を揺らしたときにはすでに遅く、俺は両方の尻たぶを掴んで、外側に引っ張ると、お目見えしたそこに顔を寄せた。 意外にそこは匂いがせず、変な味がすることもなかった。ベッドや周辺に散らばる大人のおもちゃの中には、ベルトのついたディルドもあったから、彼女が装着して突っこんでもいいように、きれいにしてあったのかもしれない。 すぐには舌を入れないで、外側を、耳につくよう水音を立ててしつこく舐めあげ、様子を窺う。「ああ、そ、あ、あん、そんああ、や、やだあ、ああん、男に、ん、はあぁ、男、なんか、あ、やあ」と喘ぎ声は、引くほど絶好調で、ぱたぱたと先走りが床に散っている音がしているなら、大丈夫だろう。 それでも、逃げたがるように盛んに尻を振るので、一旦、舌を放して、思いっきり尻たぶに噛みついた。「ひ・・・!」と怯んで身をすくませた隙をついて、一気に舌を差し入れ、舌先を小刻みに揺らしつつ、忙しく抜き差しする。 もっと騒がれるかと思ったのだけど、快感が過ぎて腹に力が入らないのか。「はぁん・・・ああ・・あん」と甘く掠れた声で鳴き、体のほうは素直で、俺が舌を突っ込むと、もっと深みに導くように尻をつきだした。 「あ、あ、あん、ん、ああん、や、男に、はあん、だ、めぇ、男、なんか、んあぁ、お尻ぃ、あ、や、男、や、だめぇ」 最後まで「男なんか」と繰り返し言っていたけど「あん、あぁん・・・もうっ」と尻を舐められただけで、本当に達してしまった。雪辱を遂げて、せいせいしたというよりは、やった!と妙な達成感を覚えたのだけど、次の瞬間、その余韻を吹き飛ばすように、けたたましい物音が立った。 音の鳴ったほうを見れば、狭い一直線の廊下の向こうに、ドアに拳を突きたて仁王立ちする、さっきスマホで見た昇り龍の男が。唖然とした俺は、後ろで物音がしたのに振り返り、尻を上げたままぐったりとしていたはずの間男が、目にも止まらぬ速さで膝まで落ちていたズボンを上げ、起き上がったのを見て、さらに驚かされた。 呆けて見ているうちにも、Tシャツを掴んでベットに跳びのり、鍵を跳ねたなら開けた窓のサッシに足をかけた。あまりにもの急展開に、間男のようにすぐに頭が切り替えられず、腰が抜けたように座ったままでいたところ、今にも窓から跳びだそうな、その一瞬の合間に、ちらりと視線を寄こされた。 と、同時に、間近で風船が割られたように、俺はぎくりとして、間男に習ってTシャツを掴むと、窓から外へと跳びだしていった。間男はそんなに先に行っていなく、振り返らずに、ひたすらにその背中を追って駆けた。 後ろから追ってくる気配はなかったとはいえ、駆けるのをやめないまま、途中で二人でTシャツを着たりしつつ、街灯の照る夜道を走りつづけた。が、ただでさえ、驚きと怖さで、ばくばくと打つ心臓にそんなに負担はかけられず、明るい通りに出る前に俺はギブアップをしてしまい、置いていくと思った間男も、背後が静かだからか、足を止めた。 「マジ、か、あの女っ・・・!」 膝に手をついて屈み、息を切らしつつ罵れば「は」と笑い交じりに息を吐かれる。 「ていうか、あの昇り龍の顔、見た?」 あの状況で顔を見る余裕なんてあったのかと、感心するような呆れるようなで、見上げたところで、街灯の下の間男も、Tシャツを握って息を苦しそうにしつつ、小気味よさそうに笑っている。 「一瞬、目が点になって、硬直したんだ。そりゃ、そうだよなあ。だって、俺たち、どう見てもセックスしているようにしか、見えなかったんだから」 なるほど。恋人に「二人の男に襲われた!」と泣きつかれて、怒り心頭に部屋に殴りこんだら、言われた二人の男がセックスをしていた。なんて、訳が分からなかっただろうし、しかも絶頂のところに、ちょうど居合わせたともなれば、余計に心境は複雑だろう。 不覚にも、つられて笑いそうになったのを、咳きこんで誤魔化した。笑いを誘われるまでもなく、こうも状況が混乱を極めたなら、しかも、それでも間男が飄々としているのは、あっぱれというもので、もう怒る気にもなれない。それどころか、一緒に必死こいて修羅場から逃げてきたせいか、「お前も大変だったな」と肩を叩き、肯きあいたい気分だ。 「にしても、ほんと、あの女むかつくよな」とどうやら間男も、俺に仲間意識を持っているらしい愚痴を口にして「だから」とポケットに手を突っこんだ。取り出した、しわくちゃの何枚かの万札を俺に向けてみせ、そして「あいつの金で、今日はぱあっとやろう」と奥歯まで覗かせ、笑いかけてきた。 部屋にいたときの、人を小馬鹿にしたような気だるげな表情とは、まるで違って、屈託のかけらもなかった。大人のおもちゃで、イけない快感地獄を味わいさせられ、あれだけ「男でイきたくない」と嫌がっていたのを。 尻を舐められ屈辱的に射精させられた直後に、辺りに花を咲かせるように、よくもまあ、可憐に笑えたもので。こいつは、やばい。こいつは、頭がおかしい。そう思うのに。 「俺の行きつけの店で、おいしいところあるから」とご機嫌なようにお札を握る拳を上げながら、背を向けて歩きだした間男に、ついていこうとして「う」と呻きそうになった。間男に聞かれまいと声は飲みこんだものの、痛くて足を前に踏みだせない。 さっき、浮気現場の余韻が残るような彼女の部屋で、嫌になるほど喘ぎ声を聞かされ、みっともなく体をくねらせる、その痴態を見せつけれ、でも、そこは凍り付いたようにびくともしなかった。のに、俺は今になって、ぎんぎんに勃起をしていた。
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