未来の家族

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 子供の頃、予言の神を名乗る男が俺に一枚の写真をくれた。  やたらとハイテンションな金髪の男だった。  未来の世界で撮影したというその写真には、どこかの写真屋のスタジオのような幕と椅子だけが写っている。  男によれば、その写真には俺の未来の家族が写るという。  俺がその意味を知ったのは、中学で初めて彼女ができた時。たまたま部屋の掃除をしていて不意に出てきたあの写真には、大人になった俺と彼女と小さな子供の姿が写っていた。  マジかよ。今の彼女と結婚するとかないわー。なんてことを思った翌週に俺はあっけなく振られ、写真は元の誰もいない状態に戻っていた。  俺は理解した。未来は変えられる。  つまり、『今の彼女』と家族になった場合の家族写真がそこには写るのだ。  それからというもの、俺は彼女ができるたびに写真を見るようになった。  大学の時、サークルで知り合った子と付き合うことになった。  写真を見ると、俺と彼女と女の子が二人写っていた。  将来息子とキャッチボールすることを夢見ていた当時の俺は、大学卒業と同時に彼女に別れを告げた。  会社の後輩に言い寄られて付き合ったときには驚いた。写真には赤ん坊も含めて子供がなんと九人。  野球チームかよ! …さすがにないと思い、別れた。  行きつけのカフェで知り合った子と付き合ったときは真っ青になった。写真には男女二人の子供に……俺の遺影を抱いた彼女の姿。  即座に別れた。  やがて俺は誰とも付き合わなくなった。  中堅になって仕事が忙しくなったこともあるが、あの写真に振り回されることに疲れたのも一因だ。  そして俺の頭からあの写真の存在がすっかり抜けた頃。俺は久しぶりにできた交際三年目の彼女から、難病にかかっていることが二か月前に発覚したと告白された。  彼女にプロポーズしようと決意した矢先の出来事だった。  今。  目の前の机の引き出しの中には、八年前にしまったままのあの写真が入っている。  震える手で引き出しを開けた。  写真には、少し俺の面影のある彼女によく似た可愛い女の子が幸せそうに笑って写っている。  そして、同じく幸せそうに笑った俺の腕には、見たことがないほど幸せそうに笑った彼女の遺影があった。  翌日、俺は彼女にプロポーズした。  二度と、写真を見ることはなかった。
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