たたりの町

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(どうしてすぐに警察に通報しないんだろう?)  ぶざまに床に転がされた状態で、男は首をひねっていた。  両手はうしろにまわされて、手首を縛られ、両の足首も縛られている。頭には、目のところだけが開いた目出し帽子をかぶっていて、帽子の上から口にさるぐつわをかまされていた。  横たわった男の視線の先には、リビングのソファに深く腰を下ろし、優雅に紅茶を飲んでいる初老の女の姿があった。  歳は六十歳くらいだろうか。シンプルな紺色のセーターとパンツをきっちりと着て、細身だが引き締まった体をしているのがわかる。顔は、若いころは美人の部類に入っていたのかもしれないが、いまは得体の知れない不敵な印象を与えた。  その女が、男を放ったまま、優雅に紅茶を飲んでいるのである。 (どうして警察に通報しない?)  男はまた首をひねる。
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