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彼は、今夜この小さな田舎町にたどり着き、食料を求めてこの家に侵入したのだった。表札は「フジタ」となっていた。
家のなかに入ってみると、あの細い女がひとりきり。
だが、たかが老女ひとりと、侮ったのがいけなかった。
簡単に倒せると思ったのに、あっという間にねじ伏せられ、縛り上げられ、床に転がされたのは、男のほうだった。女はなにか武術でもやっているのかもしれない。
壁の時計が九時四十分を指したとき、女は紅茶のカップをソーサーにもどすと、立ち上がって、男のほうへやってきた。
「あたしはこれから外に出ていって、ひと晩帰らない。あんたには、あたしの代わりに、生贄になってもらうつもりだよ」
女はそう言って、残忍な笑みを浮かべた。
男は、なんのことだか、さっぱりわからなかった。
男の反応を読みとったのだろう、女は表情をやわらげ、
「そうだね。少し説明してあげようかね」
と、話しはじめた。
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