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思い当たるふしはあった。
親の代のことだ。
そのころ、町は貧しくて、どうやって食っていこうか、と皆が悩み、苦しんでいた。
そこへたまたま、道に迷った旅行者がやってきた。着ているものも、持っているものも、見るからに金がかかっていそうだった。
旅行者を泊めたのは、当時町の顔役だった、隣のスズキ家だ。
よそ者がやってくるのは珍しかったから、町内の皆がスズキ家を訪れ、旅行者をもてなした。
そうしてもてなしておいて、夜、眠った旅行者を、皆で殺した。お金や宝石を奪い、山分けした。死体は町から離れた森に埋めた。
皆が喜んだ、これでしばらくは食っていける、と。
そうして、町中で口をつぐみ、なにもなかったことにした……。
あのときの悪事のたたりが、いまになって町にふりかかってきたのだ、と皆がそう思った。町を出るつもりだ、と話す家もあるくらいだった。
フジタ家は、事情があって、できることならこの町にとどまりたかった。
順番で言えば、今夜、金曜日の夜十時に、この家で死人が出ることになる。
かわいい孫ふたりは、もちろん死なせるわけにはいかない。娘だって大事だし、婿は少々たよりないが、娘にとっては愛しい旦那だし、孫たちにとってはかけがえのない父親だ。
とすれば、祖母が犠牲になるしかないではないか。
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