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気がつくと、男はフジタ家のリビングの床に転がったままでいた。
あの黒い影は、もうどこにもいなかった。
天井の明かりは、安定して点灯している。
どうやら助かったらしい、とわかると、男はもぞもぞと体をひねった。
うしろで手首を縛られていて、やはり自由がきかない。
(しかたがない)
男は思いきって左手を犠牲にした。
右手が自由になると、片手で足首の縄をほどき、さるぐつわを外した。暑苦しい目出し帽子を脱ぐと、その下から、紫色によどんだ顔が現われた。
男は、ふうっ、と安堵のため息をもらして、ひとりごちた。
「どうやら、『たたり』とやらも、おれのようなゾンビには効かないらしいな……」
立ち上がった男は、床に転がった自分の左手首を拾い上げた。
それは、むくんだ、血の気のない、死者の手首だった。
〈了〉
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