生死

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生死

「おい、行くぞ!」 「いや、でも兄貴。このままじゃ」 「そんなことは分かってるんだよ。 後始末は考える。いいから行くぞ!」 雑居ビルが建ち並ぶ街中の路地裏。 二人のヤクザ者が、地面に横たわる男の前で揉めていた。 男は血にまみれ、どうやら事切れているよう。 カァーカァー ビルとビルの間に見える狭い空に、一羽二羽と数羽のカラスが飛び交う。 「はぁはぁ」 「ま、待ってください兄貴」 右へ左へ、二人のヤクザ者は息を切らしながら路地裏を走る。 そして、、、 「あ、あそこだ、あそこを曲がれば」 兄貴分の方が慌てて角を曲がった時、そいつはそこに立ちはだかった。 「うわ、急に止まってどうしたんです兄貴?」 不意に現れたそいつに虚をつかれながらも、兄貴分はそいつに怒鳴りたてる。 「変な格好しやがって。ここらの浮浪者か? そこをどかんかい!邪魔なんじゃワレ!」 そいつは、浮浪者にしては若く、歳は15、6歳ほどの少年。 しかし、少年の目に輝きは無く、虚ろで、決して少年のそれではなかった。 身に纏うは漆黒の衣、そして、右手には包帯。 虚ろな目、そして、衣も相まって、少年にはあるものが感じられない。 「兄貴、こいつ変ですよ。まるで、死人みたいだ」 そう、少年には『生』が感じられなかった。 その存在は死神のよう。 「何、こんなガキにビビってんだ!おら、どけや!!」 兄貴分が少年の肩を掴む。 だが、それと同時に肩を掴んだ手が、血しぶきと共に宙を舞う。 「う!うぁー!!」 手を失った方を、もう片方の手で押さえ叫びながら兄貴分は地面に倒れこんだ。 「こ、このやろー!!」 弟分は兄貴分の悲惨な姿に混乱し、少年に向けて銃口を向け、一発また一発と弾丸を撃ち込む。 だが、倒れない少年。 確かに弾は少年に命中していた。 「ひい!化け物!!」 地面に尻餅をつき、弟分の顔から血の気が引いていく。 二人のヤクザ者を見下ろす少年。 少年の目は二人の、人としての姿を写していたが、それも少年が瞬きをするまでの話。 少年が目をつむり、開くと、もう二人は死人、死肉となり、死肉は先程まで空を飛び交うカラス達の腹に入り、跡形もなくなった。 より虚ろな目で、少年はその場を眺めている。 その目からは一筋の涙が。 「殺、、、して、、、」 少年は、カラスの羽を一枚地面にヒラリと舞い落とすと、哀しげに言葉を残し路地裏に消えていった。
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