亀の甲より年の功

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亀の甲より年の功

「昨日、◯◯街の路地裏で、会社員男性が拳銃のようなもので撃たれ、亡くなっているのが、、、」 カァーカァー 大きなスクランブル交差点。 大型スクリーンの中では、ニュースキャスターが淡々と出来事を読み上げている。 電線に留まるカラスは、ニュースを嘲り笑うかのように鳴いていた。 「続いてのニュースです。 今年は日本国内において、行方不明者数が過去最多の人数を記録していることが、政府、警察の連携による調べにより判明しました」 カァーカァー カラスは、一羽また一羽と雑居ビルへと飛び立っていった。 カラス達が飛び立つのとほぼ時を同じくして、ビルからビルへと移動する者達が。 「ねえ玄武。やっぱりあんた来ない方が良かったんじゃない?何て言うか、正直、足手まとい的な?」 「足手まといじゃと?朱雀の小娘が何を言うのかと思えば、ふん。未だに神器も上手く使えぬお主が、ぬかすわ」 「違います~。いつも手を抜いてるだけです~。本気になれば、私、誰よりも強いんだから」 「ほう、そうかい。それなら今回は本気になってもらわないかんの。なんせ相手が相手じゃ」 「分かってるわよ、それぐらい」 「ならよろしい。さて、無駄話をしてる間に目的地の廃墟ビルが見えてきおったぞ。気張れよ小娘」 朱雀、玄武と互いを呼び合うこの二人は、共に白の着物に、白の羽織を身に纏っていた。 違うのは、その羽織の背に描かれるもの。 朱雀には、真っ赤に燃える朱雀の刺繍が。 玄武には、真っ黒な亀に、その亀の尾が真っ黒な蛇となっている刺繍が。 そして、それぞれの手の甲には、黒く文字が刻まれている。 朱雀には「南」、玄武には「北」。 「ほいさ。さて、あやつはどこじゃ」 「もう、ほいさって何よ?ホントじじ臭いわ~」 「いちいちうるさい奴じゃの。ほれ、それよりサッサと結界を張らんかい」 「え?結界?いや~、それはちょっと~」 「何だお前さん?結界を張れんのかい?もう300歳だと言うのに、情けないのう」 「ちょっと、私はまだ230歳です。まだまだ若いんだから」 「300も230も、そう変わらんだろ。ワシなんて500を越えてからもう数える気も失せたわ。見た目も、ほれ、まだまだイケとるしな」 「いや、見た目完全にじいさんでしょ。若いって言うのは私みたいに肌艶が綺麗な」 「シっ!待て」 玄武の一声に、朱雀は辺りを警戒する。 ピチョン、ピチョン 水の滴る音。その音と共に、微かに聞こえるうめき声のようなものが。 「下じゃ」 玄武を先頭に、二人はビルの下層へと音もなく走り降りる。 一つ二つと下へ降り、三つ目に差し掛かったとき、その声の正体が二人の目の前に現れた。 「ちと、遅かったようじゃの」 床に倒れる男。 うめき声はどうやらその男のものだったらしいが、今は死という沈黙に沈んでしまったよう。 だが、そこにいたのは男ともう一人。 漆黒の衣を纏った少年。 少年は男の前で膝をつき、虚ろな目で男を見下ろしていた。
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