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神器VS刹那
少年と朱雀は互いに動かず、何かしらの合図を待つ。
玄武は朱雀の後ろに控え、二人の同行を見守りつつも、結界を張るための手順を踏んでいた。
静けさの中に、滴が落ちる音が響き渡る。
今か今かと、はやる気持ちを抑える朱雀。
そして、その時はきた。
廃墟ビルの中にカラスが一羽舞い込んでくる。
それを少年は目の端で見た。
朱雀はその瞬間を逃さず、少年に突っ込む。
もちろん先程と違い、玄武に言われた通り少年の左手を視界にしっかりと入れての特攻。
「入った!」
朱雀は薙刀の切っ先が少年の腹を捉えたと確信した。
だが、
カキン!
確かに少年を捉えたと思った攻撃は何かに弾かれ、その衝撃で朱雀は後ろに押し戻された。
それでも、朱雀はこの機を逃しはしないと言わんがばかりに、攻めて攻めて攻めた。
しかし、猛攻虚しく弾かれる攻撃。
「なんなのよこいつ!」
「どうやら苦戦しておるようじゃな。力を貸そうか?」
「うっさい、黙って結界張ってな」
玄武の一言に朱雀の怒りは頂点に。
そして。
「もう頭にきた!あんたがその気なら、こっちも本気だしてやろうじゃないの!」
「やれやれ、これだから若いもんは」
「口動かしてないで手動かして!それから巻き添え食らわないようにしなよね。老い先短い命かもしれないけど、今すぐ死にたくないでしょ?」
朱雀は玄武に忠告し終えると、羽織を脱ぎ宙へ投げた。
「四門が一つ、南門を護りし朱雀が参る。
神器、『紅蓮華(ぐれんげ)』」
宙を舞う羽織の背の部分。朱雀の刺繍目掛けて薙刀を払う。
次の瞬間、薙刀の刃には真っ赤に燃える炎が宿る。
そして、白の着物には紅の蓮が大小様々と浮かび上がった。
「さて、始めましょうか」
笑みを浮かべ、朱雀が燃え盛る薙刀を少年に向かって振り払う。
それをギリギリでかわす少年。
「ふん、よく今のかわせたわね。でも」
「うぁぁぁ」
少年の体が激しい炎に焼かれる。
「なにあんた、声出るんじゃん?
てか、今なんであんた燃えてるか分かんないでしょ?
それはね、あんたの周りの空気ごとブッた切ったから。空気はよく燃えるの」
床を転げ回る少年。だが火の勢いは弱まらない。
「ちなみに、私の炎はちょっとやソッとじゃ消えないわよ。大量の水でもかけるか、もしくは」
ビュン!
辺りに激しい風が吹く。
風は少年を中心に巻き起こったようで、少年の炎は消えていた。
「チッ、風か。でもどこから?ん?」
少年は片ひざをつき、息を整えている。
その少年の左手には、いつの間に手にしたのか、黒い鞘に入った柄も黒い刀が。
「ふーん、それがあんたの武器?
まぁ、武器を出した所で私には勝てないけどね」
朱雀は薙刀を改めて構える。
少年は息を整え終えたようで、ゆっくりと立ち上がった。
そして、ゆっくりと刀を鞘から出す。
だが
「な、何よそれ!?ふざけてるの?」
見ると抜いた刀には刀身がなく、柄のみであった。
「いいわよ、あんたがふざけてる間にあんたは死ぬだけだから」
少年に向かい突進する朱雀。
朱雀の薙刀が少年に到達する瞬間、神器の力で潜在能力が極限までに引き出された朱雀にはそれが見えた。
それは、瞬間でさえ時間が長く感じられる、まさに刹那。
刀身の無い柄から白き刃が現れ、薙刀をさばく。
「でも、それじゃー炎は防げ、、、」
一体、何擊だったのか分からない。
炎は打ち消され、朱雀の体は右へ左へと揺さぶられ、気づけば天井を見つめ倒れていた。
「朱雀!!」
玄武が朱雀の元へ駆け寄る。
「あれ?私?」
「いいからしゃべるな。こりゃ傷が多すぎる」
「けど、あいつをこのまま」
二人が話す間、少年はカラスの方へ歩みを進め、開いた窓へ手をやる。
そして、そのまま外へ飛び出した。
「あ!」
「よい、またチャンスは必ず訪れる」
こうして、朱雀と少年の第二ラウンドは朱雀の悔しさと共に幕を閉じた。
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