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「──でさ、あと少しだったんだよね……って聞いてる?」
委員長がムッとしたような、けれど心配そうなどっちつかずな顔で聞いてきた。
「ご、ごめん。考え事してた」
「ふーん、それでさコウくんに教えてもらった通りやってみたんだけどあと少しだったんだよね」
「じゃあ取れなかったんだ」
「ううん、結局一緒に行ってた友達に取ってもらった」
そう言って、UFOキャッチャーで取ってもらったマスコットを見せてくれた。同世代の女の子にすごく人気のあるタヌキのキャラクターだった。
「本当はさ自分の手で取りたかったんだよね」
委員長はこの間行ったゲーセンでUFOキャッチャーで遊んでいたらしい。しかし、僕の関心はその相手に対してだった。
……もしかして例の彼氏かな。
彼氏がいてもいなくても僕に関係ない。なのに胸の奥がもやもやする。
そんな気持ちだといつもは美味しく感じるハンバーガーも、紙粘土を食べている気分になる。
「どうしたの? もしかして体調悪い?」
委員長が僕の顔を覗き込んでいた。
「え、あ、大丈夫だよ」
「なんか今日おかしいよ。なにかあった?」
「……実は」
委員長に彼氏っているの?
思わずそんな言葉が出そうになった。
「中間テストの点数が気になってさ」
「ああこの間の。あれ意外なところが出題されたりしてたからみんな焦ってたね」
「結構な嫌がらせだよね」
よかった悟られなかったみたいだ。うまく誤魔化せたことに満足して、話を続ける。
「そういえばコウくんは進路とか決めた?」
「はっきりとやりたいこととかまだ見つかってないけど、とりあえず兄貴と同じ地元の大学に行こうと思ってる。委員長は?」
「私も大学行こうと思ってる。東京の大学」
「東京かぁ。遠いな」
「今じゃ新幹線もあるしあっという間だよ」
まだ乗ったことないけど、そう付け加えていた。
「周りのみんなも東京とか行くのかな」
「どうなんだろう。女の子たちはただ東京に憧れてるって感じがするけど、男子はどうなの?」
「男だって同じだよ。ただ東京の大学に行って、友達作って、可愛い女の子と付き合って青春を満喫したい。動機は不純だけどね」
「年頃だもんね」
その言葉に大した意味なんてないんだろう。年頃といえば僕もそうだ。だからなのか、目の前で屈託無く笑う彼女が僕の知らない男性と一緒に歩いているところや、もしかして同じベッドで眠ったりとか、軽蔑されても仕方ないことを想像してしまった。
「と、今日はもうお開きかな」
委員長はスマホに表示された時刻を見て立ち上がった。
「あのさ」
「?」
「もしなにか悩んでるんたら言ってよね。私たちたった二人のエイリアンズなんだから」
「……うん。ありがとう」
委員長を見送ると、途端、室内が静かになった。
「言えるわけないよな……」
数分前まで委員長が座っていたイスを眺めながら呟く。勝手なことだとはわかってる。委員長が誰と付き合おうと、なにをしていようと僕に関係ない。これが恋なのか、それとも出来たばかりの友人が見知らぬ誰かと仲良くしているのが気に入らないのか。少なくとも自分にもそんな暗い感情があるのに驚いた。
嫌な奴だ。
委員長に知られたくないと思った。
どうしたいんだろうな僕は……。
新聞配達のバイクの排気音が朝の訪れを告げていた。
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