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「そういう君はどうだい?」
「今日はいい出会いはないみたい」
「そうか。なら次に期待することだね」
近くにあった本棚から六冊目の本を手に取りながら言った。手に持っている本のタイトルはいずれもホラーかミステリーばかりだった。
「たまには違ったジャンルとか読まないの?」
「あいにくと私に恋愛小説は似合わない。それよりミステリーの世界で探偵を装っているほうがいいさ」
そう言って何気なく手にとっていた恋愛小説をそっと棚に戻していた。
「それはそうとこの後予定は空いているかい? よければお茶に付き合ってくれないか。知り合いからちょっとしたものをもらってね」
「ちょうどお腹空いていたからいいよ。朝から何も食べてなくて」
「なら決まりだ。ちょっと待ってて」
さっきまでの立ち振る舞いとは対照的に軽やかな足取りで店主の元へと歩いていった。よっぽどいい本が手に入ったんだろう。そういうところは石原さんらしい。
「待たせたね。それじゃあ行こうか」
夢見鳥と印刷された紙袋を手に先を歩く。女子にしては高身長の部類に入る石原さんは、歩き方も美少年だった。何気なく本人にそのことを言うと、微妙な笑顔で、喜ぶべきか怒るべきか迷うね、と戸惑っていた。その後で「少なくとも君に言われると特にそう思うよ」と付け加えて。
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