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僕はブラックコーヒーとパンケーキを、石原さんはカフェラテとパンケーキのセットを注文した。
運ばれてきたパンケーキはメニューに載っている写真と比べても、いやそれ以上に大きく感じた。僕が尻込みしていると石原さんは慣れた手つきでパンケーキを口に運んでいた。その姿は普段の凛々しい姿とは対照的で普通の女の子らしく可愛いとさえ思ってしまった。
「ん? 君は食べないのかい」
「え、あ、うん、食べるよ」
今にして思う。これは側から見たらデートなんじゃないかと。そう思うとただでさえ慣れていないナイフとフォークの扱いがままならない。そんな気持ちを知ってか知らずか、気づけばテーブルの向かいのパンケーキは残り一枚になっていた。
「そういえば──」
石原さんが動かしていた手を止めた。
「相川女史は元気かい?」
「委員長? 別に休んだりはしてないけど」
僕が一枚目のパンケーキを食べ終える。
「ああ、そういう意味じゃないんだ。なら聞き方を変えよう。ここ最近彼女に変わったことはなかったかい?」
石原さんがじっと僕を見つめる。その視線の中に何かの意図が含まれていた。が、僕には彼女の真意は読めない。
「変わったこと……特にないと思うけど」
言葉の意味を探りながら静かに答える。石原さんはその言葉になぜか神妙な顔をしていた。
「……そうか、ならいいんだ。それよりこの店はどうだい?」
「噂に聞いていた以上にいい店だね。ただ僕一人で来るには勇気がいるけど」
ふと、近くに座っていた二人組の女の子がこちらを見てなにか話していた。大方、男が二人でパンケーキ食べてるとでも話しているんだろう。その気配は石原さんにも伝わったみたいで「違いない」と甘いはずのカフェラテを口にしながら苦笑いを浮かべていた。
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