3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ほう、今日はずいぶん機嫌がいいみたいじゃないか」
放課後、図書室へ向かう途中、同じく図書室に向かっていた石原さんと出会った。
「え、そうかな」
「ああ。君は案外わかりやすい。嫌なことがあったりすると暗く、いいことがあると明るく見える」
「単純ってこと?」
「いいや、その方が返って安心するよ。世の中にはなにを考えてるのかわからない人が多すぎて、相手の腹を探るなんて芸当私には向いてない。その点、わかりやすい君となら付き合いやすい、そういうことだ」
「褒められてるのかバカにされてるのか……」
「少なくとも素直なところが君の長所だと私は思っているよ」
スッとした足取りで図書室の中に入る。その後ろに続く。
ふと、石原さんの髪にホコリが付いてるのを見つけて、そっと手を伸ばした。
「ひゃうっ!」
聞きなれない悲鳴だった。それが石原さんから出たものだと理解するのに若干の間を要する、それくらい聞きなれないものだった。
「……な、なにかな?」
「あ、いや……その……ホコリが……」
必死に取り繕おうとして顔が引きつっている石原さん、なにかとんでもないことをしてしまって取り返しのつかないことになったと実感している僕。
沈黙。
なにか言わないと──。言葉を探していると、
「……次回からはせめて一言かけてくれないかい?」
「ご、ごめん」
「……いや、いいさ。ありがとう」
ちょっとだけ頰を赤らめていた石原さん。滅多に見れないだろう表情になんだかこっちまで恥ずかしくなった。
「……どうせ触るならもっと優しく触ってくれればいいのに」
「え?」
「なんでもない! ほら、本を探しに来たんだろう。早く探してきたまえ」
さっきまで頰を赤らめていたかと思えば、今度は目を吊り上げていた。やっぱり女の子の考えてることはよくわからない。
最初のコメントを投稿しよう!