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二人の下級生に注意していた石原さんが部屋から出て行く二人を見送る。そして二人の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、
「もう出てきてもいいよ」
そう言った。
僕の存在を認めると「君も盗み聞きとは趣味が悪い」と呆れていた。
「違うよ。僕はただ……」
「わかっている。たださっきやられた仕返しをしたかっただけだ」
「仕返しって」
「ああ、気にしないでくれ。それより君はまだ隠れて人のウワサ話に耳を傾けているつもりかい?」
「……本当なのかな」
「ん?」
「委員長が妊娠してるって話」
「……あくまでウワサだ。女子たちが勝手に盛り上がってるだけだ」
「石原さんは……石原さんはどう思ってるの?」
石原さんは答えない。それが彼女の答えだと思った。
「石原さんも委員長が妊娠してると思ってるんだね」
「なぜそう思う?」
僕と石原さんの間に嫌な空気が流れる。
「……今日は帰るよ。なんだか本を読む気分じゃなくなったし」
「その方がいい。それよりさっき聞いたことだが」
「なにか知ってるの?」
「……さっさと忘れることだ」
ピシャリと告げられた。石原さんは基本的に余計なことはあまり言わない。皮肉屋ではあるけど、それは相手を信頼してのやり取りだと僕は理解している。その彼女がそう言うということは、それはよっぽど僕に聞かせたくない話なのだろう。だからタイミングよく二人の間に割って入った、そうとも考えられる。
晴れたはずの気分がまた曇りだす。
対照的に空は秋晴れだった。
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