夜明けが来る前に

4/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
「今日は時間通りだね」  委員長は微笑みながら僕を迎え入れた。しかしその微笑みはいつもと違う色を纏っていた。 「時間通りって、またからかってるの?」  もちろんそれが彼女なりのジョークだってのはわかってる。けれど今は、彼女が自分に対して言った皮肉しか聞こえなかった。 「なにか飲む? 急いできたから喉乾いたでしょ」  委員長は僕の返答を聞く前に、適当に自販機のボタンを押していた。出てきたのはホットの缶コーヒーだった。 「喉乾いてる人に缶コーヒーって。しかもホット」 「適当に押したら出てきたんだから諦めて」 「だったら適当に押さなきゃいいのに」  ボヤきつつ缶コーヒーを飲む。やっぱり乾いた喉に缶コーヒーは合わない。 「それで……さ」  僕がいつもの指定席に座ると、委員長が歯切れ悪そうに話しかけてきた。僕は自然と委員長から視線をそらす。 「今日コウくん来てくれないかと思ってた」 「……うん」 「それってさ、やっぱり聞いたから?」  なにをとは聞かない。その一言で全てを察した。僕は言葉を探す。見つからない。 「あ、あはは。そっかぁー、バレちゃったか……」  委員長が眉根を寄せて頭をかいていた。こんな委員長なんて普段見ること出来ない。委員長は常にクールで他者を寄せ付けない、そんな人物だったはずだ。それが僕の前だけでは自然な姿を見せてくれる。それが嬉しくあったはずなのに、今じゃ苛立ちを感じるようになった。なにも特別なのは僕だけじゃない。それどころか僕は彼女の特別にすらなれない。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!