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「死んでしまえばいい」
強く発せられた言葉に心臓を掴まれたような痛みにも似た感触。それは僕のものではない。彼女の──相川このみの痛みだ。
「そう思った女の子は誰も彼もが寝静まった頃、家を抜け出し命を断とうとしました。そんな時に女の子は一人の男の子に出会いました」
ヒラリとスカートを翻して立ち上がる。彼女の一挙手一投足が舞台に映える女優のように見えた。僕は舞台の上に立つ彼女の全てを目に焼き付ける。
「男の子の名前は岡本幸四郎。女の子と同じクラスの男の子。彼とは一度も話したことはなかった。そんな彼は死のうとした女の子にこう言いました」
彼女が僕を見る。僕はその言葉に続くセリフを知っている。
「なにがあったか僕にはわかりません。でも、飛び降りるのは待ってください」
言い終えると彼女は嬉しそうに頷く。
「女の子は彼がなにを言っているのかよくわかっていませんでした。なぜ彼はわたしにそんな言葉をかけるのか、と。話したこともない相手なのに、どうしてそんなことが言えるのだろうかと。女の子は思いました。もし彼ならば特別じゃないわたしを受け入れてくれるのではないかと」
「それが同盟」
「そう。でも女の子が彼を選んだ理由は単純、同じ曲を好きだと言ってくれたから、ただそれだけ。最初は誰でもよかった。けれど彼の話を聞くうちに女の子は自分が知らないことを知っている彼のことが気になりました。でも女の子はその想いを彼に告げることはしません。なぜなら女の子はもうこの場所にいられないから」
僕に向き直った彼女は涙を流していた。この舞台の幕が下りようとしている。
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