【晴/クリスマス/後】

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【晴/クリスマス/後】

「いいよ! 一緒に寝ようよ。俺大丈夫だから!」 「晴」 「大丈夫だって!」  多分景久君ってば、俺の身体を心配してくれているのだ。  なにせほら……俺たち昼間もやっちゃったからさ。  実際だから俺は、夜もやるなんて思ってなかったんだけど。この様子だと景久君はしたいんだろう。だったら俺に否やなんてある訳ないじゃん。 「そりゃ俺はもう勃たないと思うけど……なにせもう二回も出しちゃった訳だしさ……でも俺のが勃たなくても景久君のが勃てば出来るじゃん? だから、しよ?」  俺がそう言ったら、景久君は更に顔を真っ赤に染めながら俺を抱き込んで来た。あ、布団の山に押し倒されたぞ。まさかこのままここでやっちゃうのかな? 「晴、お前なあ……なんでそんなかわいい顔して露骨なこと言うかな……」  熱い吐息が耳にかかる。けど、色っぽさ半分呆れ半分って感じだった。わあ、失敗した……? 「も、もっと色気のある誘い方出来ればいいんだけど……! ごめんね……⁉ 次からはもっと奥ゆかしい感じ?に誘えるように頑張るから……!」  自分の粗忽さに顔から火が出そう。恥ずかしさといたたまれなさから景久君の腕からぬけだそうとしたんだけど、ぎゅっとのしかかられていて動けない。 「無理だろ。奥ゆかしくて色気のある晴なんて想像できない」 「そんなぁ……!」  ひどいこと言うけど、景久君は笑ってくれている。  それにほっとして、俺は景久君の首にすがりついて唇を重ねに行った。そしたら景久君も迎えに来てくれて……、重ねるだけじゃなくて深いのをしてくれた。舌を吸われるのはもちろん、唇や上顎の内側を舐められて気持ちが良い。  はふはふ息を継ぎながら口内を愛撫されて、やっと唇が離された時には俺はぐったりしちゃってた。 「晴はそのまま変わらなくていいんだ。吃驚することもあるけど嫌じゃないし、それで嫌いになることもないから」  そ、そうなのかな……?  俺は疑いを完璧に拭えはしなかったけど、でもそう言ってくれた景久君の声も口調もいつもよりずっと優しくて柔らかだったから、とても嬉しくなってしまった。 「じゃ、このまましちゃう?」  この部屋の暖房は付けてないから結構寒いけど、やってれば熱くなるし。と、俺は腕を開いて景久君を誘い込もうとする。  だが景久君は溜め息をつきながら離れてしまった。 「だから煽るなって。こんな寒いところ、風邪ひくだろう?」  景久君は敷き布団の山から二枚を持ち上げた。  俺は慌てて掛け布団の山から起きて、端っこに避難する。その隙に空いたスペースへ布団を伸ばす景久君。 「じゃあこの二枚をここで乾燥掛けるぞ」 「はーい」 「俺の部屋だと布団二枚は敷ききらないから、この部屋で寝よう。だから暖房も掛けとこうか」 「はあい!」  やったね!  何だかんだ言って俺の望みもちゃんと叶えてくれるの優しい。 「景久君シーツは? あと毛布」 「シーツはそこの引き出しだ。……毛布か。母屋から取ってくる」 「あ。ごめんなさい」 「晴も一緒においで。傘を差してほしい」 「はい!」  お役目を与えられて嬉しがって、行きにも景久君に傘を差し掛けたんだけど……俺たちの身長差だとこれ難しくない? 俺が頑張って傘を掲げてる横で、腰をかがめた景久君はおかしそうに笑ってる。  で、舟木の奥さんから毛布を借りて――佐那ちゃんもいたからちょっと話をしたり、師範に見つかってからかわれたりして、俺たちの食糧事情を案ずる奥さんに『今晩も明日の朝も食べに来なさいな』って誘われたのを辞退しつつ、下宿棟に引き返す。  結局毛布二枚を抱いた俺に景久君が傘を差し掛ける形になって戻ってきた。身長、もう少し欲しいなぁ。  その後はちょっとお茶を飲んで休憩してから夕飯の準備を始めて、かなり早い時間に食べた。  クリスマス代わりだってチキンもケーキも買ったので、この後の事を考えると気は逸るんだけどしっかり味わって完食。おでんももちろん平らげた。 「わ、あったかい――」  雨戸をしっかり閉めて暖房を掛けた二階の部屋はとても温まっていた。  布団も二組とも乾燥機を掛けたお陰でふわっとぬっくぬくだ。景久君の方は羽根布団の上に毛布だけど、俺は敷き布団と羽根布団の上に掛けるダブル毛布の予定――といっても、毛布自体はまだセットしてないんだけどね。……だって絶対汚しちゃうし。  そう。汚すような事をしに来た訳です。  夜は長いし、景久君はやる気に満ちてるみたいだし、途中でバテないようにがんばろ。  ――ってセックスには似つかわしくない気合いを入れて臨んだんですけどね?  気合い、足らなかったわ……。  ていうか、俺の残機がゼロなのが悪かったんだと思う。前でいけないから初っぱなから後ろでいくしかないんだけど、……俺いきなり後ろでいくって未経験なんだよね。いっつも二三回前でいって身も心もとろとろ~って感じになってから後ろでいくから。  昼間したから俺の身体はまだ柔らかくて。なのに景久君はきっちり丁寧に、いつもより五割増しくらいねちっこくあれこれしてくれて。普段ならフェラで一回いくし中いじられて前立腺でもいかされるんだけど、今回はいくのに十分な愛撫でもいけず快感に翻弄されるだけだった。焼き切れそうな感度をどうやって逃したらいいのか全く分からない。  景久君は俺の勃起しきらないのをゆるゆるとしごきながら胸を舐めて、舌で乳首を転がしたり吸ったりと色々してくれる。後ろもローションを入れて蕩けさせられているし、すでに前立腺よりもっと奥まで指でさぐられていた。その時にいけなくてべそかいたから指が撤退しちゃったんだろうけど、違うんだよぉ。蛇の生殺しみたいなこの状況を長引かせて欲しいんじゃないんだよぉ……。 「ね、いれて。……ね?」  俺はすがりついていた景久君の首から離れ、片足を宙に浮かせる。 「晴」  景久君が身を引いたので、俺はもう片方の足も持ち上げた。そしてでんぐりがえるみたいに腰を浮かせ、腿を抱えて後ろを開く。 「も、はいる、から。ほら」  指先に力を込めると、とろりと流れ出たローションが尾てい骨を伝う感触がした。  それにさえ感じて腰を揺らめかせ息を弾ませて快感を逃しながら、景久君の訪れを待つ。入れてもらえたらきっといける。いけたらきっと楽になる――そう思って。  だけど闇の中できらめいた景久君の瞳を見た瞬間に、俺は間違いを悟った。  楽になんかならない。食べられる。とどめを刺される――俺がそんな風に錯覚してしまうような、噛み殺す獲物を見定めた獣じみた目をしていたのだ、景久君が。  あの景久君が。いつも冷静で理性的な、生でしないことに関しては理性の塊みたいな景久君が、さ。まさかゴムもつけずに、間髪入れずに全部突き込んでくるなんて思わなかったんだ。 「あ、ッ――――!」  一気に結腸まで抉られて、俺は声にならない悲鳴をあげながらガクガクと身体を震わせた。当然いってる。あんなにいけずにつらかったのに、今はいった衝撃がつよすぎてつらい。 「や、やぁ……! だ、め、って……ッ。やめ、いって、や、ぁ……!」  折りたたむように俺を抑え込んだ景久君が、ほぼ垂直に打ち込んでくる。いつもより硬くて太いそれがくさびのように打ち込まれる度に、俺は身をふるわせて跳ねた。  きもちいい。  つらいはずなのに気持ちいい。 「あ、あ、あん……! ぁん、ん、あっああ、ん……っ」  最早制止の言葉も出せなくて、喘ぐばっかりの俺。  それからすぐに景久君が射精したみたいで、小刻みに揺らされて揺さぶられ、ついには抜かれて喪失感に悲鳴をあげる。そしたすぐにくるっと身体を返されて、今度は後ろから挿入された。  さっきまでと変わらない硬いのが、奥をこねるようにぐりぐりと刺激してくる。その度にぬちゃぬちゃと音が響いてすごくやらしい。 「ぅう、さ、さわ……」  うつ伏せた体勢から後ろ手を伸ばして、己の尻に触れてみる俺。景久君は俺の様子に律動を緩めた。 「さわらせて」  精一杯手を伸ばして、俺と景久君が繋がった箇所に指を這わせる。指を滑らせて景久君の硬いそれを手のひらで辿って、ぬちゃりと濡れた感触を得てから手を引っ込めた。  俺はその手を、迷わず己の鼻先に持っていった。 「あは、せーえきの匂い」  景久君、ホントにゴム付けてない。俺の中に出してくれたんだ。いっつも、どんだけ俺が『発情期でもないんだから妊娠しないよ』って言っても絶対ゴムつけてたのになぁ……。  俺と景久君が隔てるものなく繋がった証が嬉しくて愛しくて、くふふと笑ってしまう。  そしたらその瞬間に、ずんっと突かれた。 「あっ」 「……わすれてた」  背中に覆い被さってきて低い声で囁かれたけど、その直後に俺の耳を舐めてくる。ねっとりとした舌の動きに陶然とさせられちゃった俺は返事どころじゃなくて、うわごとみたいに『うれしい』って言うのが精一杯だった。  で、その後はひっくり返されたり上に乗っけられたり横から攻められたりとくるくる体位を変えられて、中に出されるたびにはしゃいで喘いで。所々覚えてるだけでも赤面もののはっちゃけ具合だったと思う。  でもそれは景久君も同じだったのかな?    俺は事後、気を失う感じで寝ちゃってて。目を醒ますと同時に、土下座せんばかりの勢いで謝ってきたんだよ。ていうか土下座だよねそれもう。やめてよ~。 「すまん、やり過ぎた」 「いいってば。誘ったの俺だもん」  確かに想像の何倍も激しかったし吃驚するくらいの長丁場だったし。でもその分感じて喜んだのも確かなので。 「ていうかさ、ホントはいっつもあのくらいしたいのを我慢してた? そうだったら俺そっちのがショックで……!」 「あ、それは、いや……そんなことはないぞ」  一応否定の形で答えてくるけれど、ウソだってもろバレのしどろもどろさと視線の泳がせ方じゃん。  ――やっぱり足らなかったんだ……!  がーんと衝撃を受けてこっちこそ土下座したくなったけど、ぎゅっとタオルケットを握りしめて我慢した。ここで俺まで謝ったら堂々巡りだよ。  ――これはあれだ。むしろ俺が、日頃から期待に応えられるようにもっと体力つけるしかないやつ……!  たしかに、全身がぎしぎしがたがたする今の状況からすれば、景久君が遠慮しちゃったのも分かる。遠慮って言うか、気遣ってくれてたんだよね。ありがとう。  だったら俺もそれに応えるべく……!  ――明日から朝のマラソンと筋トレの時間を増やすぞ……!  と、固く決意したのだった。 (クリスマス/おわり)
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