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電車が美緒と望が通う高校のある、終着の駅に到着する。
「じゃ、美緒さん。もし会えたら、また帰りに」
そう言って望は美緒より先に電車を降りて行く。
望が通う秀嶺学院高校は駅の東側の、10分ほど歩いた新興住宅地の中にある。美緒が通う女子校とは反対方向だ。
スポーツバッグを斜めに背負った望が、学校の立派な校門を過ぎ昇降口までの並木道を歩く。
それまで胸を張って意気揚々に歩いていた望であったが、その途中で急に猫背になった。ような気がした。
下を向いてしまったからか。長い前髪が顔を覆い、その表情さえも伺えないほど。その状態のまま望は昇降口を抜けて教室へと向かう。
入学してから1ヶ月余り。教室で授業を受けている間は、ほとんど誰とも話すことなく独りで過ごしていることが多い。
通学の電車の中で美緒と話していた時とは、まるで別人のようだ。
再び望が朝のように元気そうな姿を現したのは、全ての授業が終わり放課後になった時。
昇降口を出て陸上競技部の部室があるグラウンドへと向かう途中。一様の風が望を包んだかと思うと猫背だった姿勢も直り、歩く速度も速くなった。ような気がした。
グラウンドの隅に並ぶ長屋のような部室の建物の前を歩く。その長屋の1ヶ所の引戸が開き、濃紺のジャージを身に纏った女の子がスーパーから拝借してきたのであろう、買い物籠を持って現れる。
「よ!望くん」
望に笑顔を向けるのは同級生の女子マネージャー、新城梢である。
「ああ、こずちゃん…… 洗濯物、取りに行くの?」
望の問いかけに「うん!」と元気に頷き、2人は並んで歩き出す。
「俺が持ってきてあげるよ。着替え終わるまで待てる?」
「うん。そうしてもらえると助かる」
「じゃ」
陸上競技部の男子部室の前に辿り着いた望は梢から買い物籠を受け取り、そして引戸を勢い良く開ける。
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