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衛くんは生きている。美緒はそう確信した。
あの嬰児の姿の入れ物を失ってなお、衛は望の中に生き続けているのではないか。
美緒はそう考えていた。
夏休み中の出来事とは言え。双子の弟である衛の死は、望の同級生や陸上競技部員達にも知られることとなった。
退院したばかりであり、喪に伏す意味もあったのだろう。数日、総体予選終了後の部活を休んだものの。
望はすぐに復帰して、その元気な姿を部員達に見せた。
地方予選に駒を進めた上級生達に混ざり、炎天下の中で走り込みを続ける望の姿に、余計な心配は不要なのだと思い知らせたのだ。
「それだけじゃないのよ。ウチの高校、夏休み明けに『課題テスト』ってわけのわからないテストがあるんですけど」
「ウチもあったなぁ、2年まで」
「それでも望くんはまた、5教科全部でトップだったみたいで。まったく…… 文武両道にも程があるっつーの」
梢の溜め息に美緒は微笑む。
「あ~あ。美緒さんには敵わないのかなぁ……」
「ん?何が?」
「なんか相思相愛って感じ、望くんと。私が入り込む隙なんて全然ないじゃない」
こればっかりはお互いの気持ちがあってのもの。梢のせいでも美緒のせいでも、ましてや望のせいでもない。
「で?どうなんですか?望くんとは」
「ええ、相変わらずよ。朝の電車で会って、くだらないお話をして、こうして梢ちゃんとの待ち合わせの取次ぎをお願いして」
「…… それだけ?」
「ええ。それだけ」
「え~。私はてっきり、美緒さんと望くんはそのぉ…… もうそーゆー仲なのかと思ってました」
「そーゆー仲って、どーゆー仲よ」
「安心して、美緒さん。こうなってしまった以上、私はもうお二人の恋路のお邪魔はいたしません」
口には出さないものの。そうしてもらえると助かる。と、思ってしまう美緒。
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