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望への好意に気付いた時、美緒は同時に気付いたことがある。
今まで初恋の相手であった幸崎宗太郎を引きずり、女子校へと進学してからは男っ気のない地味な生活を続けていた美緒。
望との出会い、衛の秘密、恋敵の登場、そして今回の出来事と。今までになかった刺激的なことに触れるうちに。
美緒は過去の自分と決別し、未来に向かって生きる決心を強めていた。
人間ならば誰しも── しかも前途洋々な高校生ならばなおさら、未来への希望に向かって突き進まなければいけない。
しかし一度過去へと戻ってしまった経験を持つ美緒は違っていた。間違っていた。
いつまでも過去の相手を想うあまり、希望に満ちた未来を忘れてしまっていた。
その間違いに気付かせてくれたのは、望と衛だ。できるならばずっと一緒にいたいけど……
美緒には目標ができた。それはある筋から耳にした噂。
そう遠くない将来。今は気象庁の予報官しか発表することのできない『天気予報』を、民間人が発表していいようになるのだと。
それを商業的に利用してもいいように、国はそれなりの国家資格を用意するのではないか。というもの。
美緒は以前よりも増して、気象の知識を深めることに勤しんでいる。そして進路を公立大学の気象学が学べる学科へと絞った。
宇宙や天文学を志す望とは、似て非なる道。再び二人の道が交わることは、あまり期待できそうにない。
それでも美緒は気付いた。未来への希望を持ち続ける大切さを。それを教えてくれたのが、望と衛の存在。
「梢ちゃんは、将来の夢なんてあるの?」
「えっとねぇ…… お嫁さん」
…… 幼稚園生ぢゃないんだから。
「ってのは冗談で。う~ん…… そうねぇ。私ホラ、お節介だから。人を助ける仕事。例えば…… 看護婦さんなんて憧れるかなぁ」
美緒は思い出した。初夏の陸上競技場で望が倒れた時。梢が的確な対応、処置を施したことを。
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