静かな恐喝

一時停止不履行

「大丈夫です。証拠は無いですから。あれば警察に届けます」
そう前置きしてから僕は続けた。

一時停止の標識があるのに停まらなかったので、一時停止不履行です。
歩行者が横断することが予想されるところでは一時停止の標識が無くても一時停止しなくてはいけないのは自動車学校で習いましたよね。
一時停止していれば車速も低いので、ここまで水しぶきは上がりません。これは唯一の状況証拠になりますね。
現行なら7000円で2点。
次に、日が落ちたらライトを点灯することも違反されています。まぁこれは罰金は6000円程度ですが、1点減点です。
歩行者に水たまりの泥水を跳ねた場合は5万円以下の罰金刑だとも知って居ますよね？大きな会社の役員さんなら。

やばい、と僕は思っていた。
口が止まらない。

ウインカーを出すタイミングも遅いです。
30m手前から行動を終えるまでと聞いたことはありませんか？
そしてここ。

僕は車が出てきた所から車までを指した。
「交差点から3.5mです。僕が歩いた歩幅と歩数でわかります。交差点から5m以内は駐停車禁止です。ご存知ですよね、サンジェス株式会社の方であれば。警察にも納品されている」

社章から会社名、乗っている車から地位の高い役職だろうと推測していたけど、調子に乗って喋るうちにその会社が何をやっているかを思い出した。
楽しんでいる自分が分かった。
顔に出さないよう、今にも笑いそうな頬の筋肉に命令した。