一時停止不履行

6/6
前へ
/26ページ
次へ
【帰宅】 「ただいまー」 「おかえり!あ、なんかあった?顔に出てるよー」 ニヤニヤしていたんだと思う。 とりあえず玄関を上がり、着替えを済ませる。 そして「今日の稼ぎ」と言って僕は紙幣の束を清美に渡した。 「へー、今日はカモが多かったのね!」 「最後に一番得意なヤツを引っ掛けてさ」 「あ!また有りもしない法律とか持ち出した?」 「まぁ少し」 「たまたま今日は好物にしたよー。しかも、あたしも知らなかったんだけど、今年の1月から牛肉のランクにA6が追加されてたのよー!」 「そんなのねぇよ」 これは嘘だ。 ダイニングテーブルを見ると、国産A5の牛肉が綺麗な皿に盛り付けられていた。 「今日はね、キッチン・マダラのシェフに焼いて貰ったの」 「マジか!直ぐ食う!」 これは本当らしい。焼き加減がマダラそのものだった。 まだ湯気が消えない牛肉を前に、椅子に座りながらフォークを指して口に運ぶ。 そして僕は叫んだ。 「うっめー!!」 僕は心の中で感謝していた。 ある一部の事だけに()けた、偏った知識だけで金持ちになった人に。 いつもスマホでニュースを見ているのに、本質までは理解していない人に。 そして自分は凄いと思っている人ほど、自分より凄いとしてしまう話術が自分にあることに。 「ワイン、どうぞ」 僕はまた叫んでいた。 「うめー!」 「もー。でも本当に赤ワインはこれでいいの?ボールドーとかじゃなくていいの?」 「いやいや、アルプスが一番好きなの!」 「あっそ。でもさ、スマホの電源ボタン押しながら画面触るとフラッシュが光るやつ、私にもくれない?」 「はぁーお前はいらないだろ」 「なんでよー!あとあれ、画面見られたらボイスレコーダーで録音してました的な壁紙も」 「3万で1年レンタルしてやる。てか、お前の手口は俺とは違うだろ?」 「もーっ!ケチケチケチケチ!!」と清美は笑顔で叫んだ。 僕も少しのワインで酔っていたのか、叫んでしまった。 「世の中の馬鹿な天才達に祝福を!!」 一時停止不履行、おわり
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加