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【帰宅】
「ただいまー」
「おかえり!あ、なんかあった?顔に出てるよー」
ニヤニヤしていたんだと思う。
とりあえず玄関を上がり、着替えを済ませる。
そして「今日の稼ぎ」と言って僕は紙幣の束を清美に渡した。
「へー、今日はカモが多かったのね!」
「最後に一番得意なヤツを引っ掛けてさ」
「あ!また有りもしない法律とか持ち出した?」
「まぁ少し」
「たまたま今日は好物にしたよー。しかも、あたしも知らなかったんだけど、今年の1月から牛肉のランクにA6が追加されてたのよー!」
「そんなのねぇよ」
これは嘘だ。
ダイニングテーブルを見ると、国産A5の牛肉が綺麗な皿に盛り付けられていた。
「今日はね、キッチン・マダラのシェフに焼いて貰ったの」
「マジか!直ぐ食う!」
これは本当らしい。焼き加減がマダラそのものだった。
まだ湯気が消えない牛肉を前に、椅子に座りながらフォークを指して口に運ぶ。
そして僕は叫んだ。
「うっめー!!」
僕は心の中で感謝していた。
ある一部の事だけに長けた、偏った知識だけで金持ちになった人に。
いつもスマホでニュースを見ているのに、本質までは理解していない人に。
そして自分は凄いと思っている人ほど、自分より凄いと勘違いしてしまう話術が自分にあることに。
「ワイン、どうぞ」
僕はまた叫んでいた。
「うめー!」
「もー。でも本当に赤ワインはこれでいいの?ボールドーとかじゃなくていいの?」
「いやいや、アルプスが一番好きなの!」
「あっそ。でもさ、スマホの電源ボタン押しながら画面触るとフラッシュが光るやつ、私にもくれない?」
「はぁーお前はいらないだろ」
「なんでよー!あとあれ、画面見られたらボイスレコーダーで録音してました的な壁紙も」
「3万で1年レンタルしてやる。てか、お前の手口は俺とは違うだろ?」
「もーっ!ケチケチケチケチ!!」と清美は笑顔で叫んだ。
僕も少しのワインで酔っていたのか、叫んでしまった。
「世の中の馬鹿な天才達に祝福を!!」
一時停止不履行、おわり
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