第二章 違法薬品密輸業者

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 そのくせ、本人はいつも通りの表情をしている。  それが、逸崎にとっては悲しかった。本音を言わない、本心を顔に出さない。身体は悲鳴を上げているのにもかかわらず、だ。  心の傷は目に見えない。なにかしらのサインでもあれば気づいてやれることが多いが、キリヤはそれすら出さない。心が傷つかないはずはないのに。こんな生き方をしているのだから、辛くて仕方ないはずなのに。どうしてそうやっていられるのか、逸崎には分からない。  逸崎はぴったりした手袋を嵌めて、手当てをしながら、そんなことを思った。  弾丸をひとつずつ抜いていき、弾痕と、刺し傷も含めて一枚のガーゼを当て、包帯を巻く。左手にはガーゼを当てて、包帯を巻いた。 「……終わったぞ」 「ああ」  キリヤは身体を起こし、腹と左手を一瞥する。  左手を握ろうとして動かしたが、握れなかった。  キリヤはふうっと息を吐くと、身支度を始めた。 「今回はどうする?」 「止めておく」  キリヤは逸崎を振り返りながら言った。  ワイシャツを着たキリヤは、ローブを身に纏うと、革手袋を嵌める。  カーテンを開けながら、声を出す。 「帰るぞ」 「はい!」  美乃華は返事をすると、キリヤの黒刀を一本持った。  キリヤもすたすたとソファに近づき、置いてあった残りの一本を手に取った。 「じゃあな」  キリヤはそう告げると、ラボを去った。  その後に美乃華も続いた。
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