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消毒をしないのは、彼の特性のひとつで、数時間経てば傷が塞がるからだ。
「終わったぞ。……飲んでいくか?」
「ああ、一人分もらえるか」
キリヤは身体を起こしながら言った。
ここには健康な人間から集めた輸血が大量に保管されている。キリヤがどうしても人間の血が欲しくなったときに、使うのだ。
「おう」
逸崎はそう言うと、銀色の細長い器に輸血を注ぎ入れて、キリヤに渡した。
「ん」
キリヤは短く言うと、人間が酒を嗜むかのように、ゆっくりと飲み干した。
空になった器を返すと、キリヤは立ち上がり、黒のワイシャツ、ローブを身に纏った。革手袋を嵌めながら言う。
「また、くる」
「おう」
その言葉にうなずいた逸崎は、出ていくキリヤの背を見送った。
キリヤは車に乗り込んで、ふと思う。
――美乃華と付き合いだしたこと、言うの忘れた。
忘れた自分に苦笑しつつ、キリヤは車をスタートさせた。
キリヤが帰宅したころ、すでに夜の帳が下りていた。ちょうど夕飯時だった。
「ただいま」
「おかえりなさい。……なんで起こしてくれなかったんですか?」
美乃華が言いながら、頬を膨らませた。
「気持ちよさそうに寝ているのを起こすのが、嫌だったんだ。……着替えてくる」
キリヤは苦笑してそう言うと、自室に引っ込んだ。
切れて使い物にならなくなった黒のワイシャツを専用のゴミ箱に放り込んだ。
クローゼットの中から、新しい黒のワイシャツとスラックスを取り出す。
包帯の巻かれた腹を一瞥して、それらを身に纏うと、リビングに戻った。
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