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「夕飯は? 済ませたのか?」
キリヤが尋ねると、美乃華がうなずいた。
「はい。……今回はどんなオーダーだったんですか?」
キリヤは持ってきた灰皿をテーブルに置き、美乃華の隣に座る。懐から煙草を取り出す。
慣れた手つきで火を点けて、咥えると口を開いた。
「結婚詐欺師。十人の女達を騙し、二千万ほど稼いでいた。しかもアジトが大きな邸宅。正直、驚いたぞ」
「怪我は?」
「腹に包丁が刺さっただけだ」
「痛い、ですよね?」
それを聞いた美乃華は、心配そうに尋ねた。
「平気だ、これくらい。時間が経てば治るしな」
キリヤは煙を細く吐き出しながら言った。
「でも、あなたが傷つくのは……」
嫌ですと言おうとした美乃華だったが、キリヤに抱きしめられてしまい、言えなくなる。
キリヤは煙草を指に挟んだ。
最初こそ驚いたものの、美乃華は彼の首に頬擦りをした。
「ふ~。心配しているんだよな? 嬉しいよ」
キリヤは煙を吐き出しながら、そう言った。
「なら、いいです。……キリヤさん、珈琲、飲みますか?」
「いや、いい。……もう少しこうしていたい」
その言葉に美乃華は顔を赤くした。
キリヤは左手で煙草を灰皿に押しつけると、美乃華の頬をそっと右手で撫でた。
「……」
美乃華はなにも言えないまま、顔を赤くする。
可愛いなと思いながら、キリヤはふっと笑った。
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