第一章 結婚詐欺師

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 翌日、キリヤは自室の椅子に座り、ひと晩じゅう考え事をしていた。  独りでオーダーをこなしたことは後悔していない。  ただ、美乃華がいないことが、寂しかった。  美乃華がいないと、死んでもいいのかもしれないという想いが胸をよぎる。  だが、美乃華のことを想うとそれではいけない、と。  俺は生き抜かなければならない。  キリヤはそんなふうに、強く、強く、そう思っていた。 「キリヤさん」  美乃華の声で、キリヤは現実に引き戻された。  キリヤは考え事を止めて、リビングへ。  顔を出すなり、美乃華が抱きついてきた。 「どうした?」  キリヤが尋ねた。 「なんだか、哀しそうな顔をしていたので、つい……」 「悪かったな」  キリヤは穏やかに笑って、そのまま美乃華を抱き上げる。 「ちょっ……!? えっ!」  美乃華は突然抱き上げられて、身を固くする。 「ちゃんとつかまっていろ」  キリヤがニヤリと笑うと、美乃華がそうっと首と肩に腕を回してくる。  それに満足したのか笑みを深めたキリヤは、ソファまで歩いていって、優しく下ろす。  ソファの背もたれを倒して、美乃華に腕枕をして、優しく抱き寄せる。  先ほどと同じく、そうっと背に手を回す美乃華。 「顔、赤いな」 「っ……」  美乃華は恥ずかしいあまりに顔を隠そうとするが、キリヤに顎をつかみ上げられてしまう。 「こらこら、せっかくの可愛い顔を隠すんじゃない」  目前にはニヤリと笑ったキリヤの顔。  そのウルトラマリンの瞳は吸い込まれてしまいそうなほど美しかった。 「キリヤさん……」 「ん?」 「いつも思っていてなかなか言えなかったんですが、とても綺麗な目ですよね」  美乃華はキリヤの顔を見ながら言った。 「そうか? ありがとうな」  キリヤは嬉しそうに言い、頭を優しく撫でた。  美乃華は嬉しそうに、照れくさそうに笑った。  そんな彼女の額に、そっと口づけを落としたキリヤ。  美乃華の顔がさらに赤くなる。  額から唇を離し、キリヤはニヤリと笑うと、美乃華を抱きしめた。
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