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そのくせ、本人はいつも通りの表情をしている。
それが、逸崎にとっては悲しかった。本音を言わない、本心を顔に出さない。身体は悲鳴を上げているのにもかかわらず、だ。
心の傷は目に見えない。なにかしらのサインでもあれば気づいてやれることが多いが、キリヤはそれすら出さない。心が傷つかないはずはないのに。こんな生き方をしているのだから、辛くて仕方ないはずなのに。どうしてそうやっていられるのか、逸崎には分からない。
逸崎はぴったりした手袋を嵌めて、手当てをしながら、そんなことを思った。
弾丸をひとつずつ抜いていき、弾痕と、刺し傷も含めて一枚のガーゼを当て、包帯を巻く。左手にはガーゼを当てて、包帯を巻いた。
「……終わったぞ」
「ああ」
キリヤは身体を起こし、腹と左手を一瞥する。
左手を握ろうとして動かしたが、握れなかった。
キリヤはふうっと息を吐くと、身支度を始めた。
「今回はどうする?」
「止めておく」
キリヤは逸崎を振り返りながら言った。
ワイシャツを着たキリヤは、ローブを身に纏うと、革手袋を嵌める。
カーテンを開けながら、声を出す。
「帰るぞ」
「はい!」
美乃華は返事をすると、キリヤの黒刀を一本持った。
キリヤもすたすたとソファに近づき、置いてあった残りの一本を手に取った。
「じゃあな」
キリヤはそう告げると、ラボを去った。
その後に美乃華も続いた。
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