第三章 美術館

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 二人が通されたのは事務所のようだった。  数人が仕事をしている。 「どうぞ」  男は来客用のソファを指し示しながら言った。  キリヤは黒刀を素早く腰から外して、傍らに置くとソファに座る。  美乃華もキリヤの隣に腰を下ろす。 「どこでそんな情報を得たのかは知りませんが、ここになにをしにきたんです? 見たところ物騒なものをお持ちのようだ」  男の発言に、キリヤは喉の奥でくくっと(わら)った。 「これらが本物に見える。だがら、怯えているのか?」 「そりゃあ、怯えますよ。死にたくないんですから」  キリヤはふうっと息を吐く。 「俺達はここを壊しにきた。営業停止に追い込むために。贋作に惑わされる客達にも罰を与えなければな」  男の声が大きくなった。 「ちょっと待ってください! お客様は関係ないはずです!」 「しっ、声が大きい」  男は慌てて声を小さくする。 「今すぐ、出入り口を封鎖しろ。従わなければ、殺す。死にたくないんだろう?」  男は慌てて、出入り口封鎖の指示を飛ばす。  ほかの職員はわけが分からないという顔をしていたが、指示に従った。  その間に話していた男に銃口を向ける美乃華を一瞥した。  殺せという目での合図が伝わったのか、美乃華は引き金を引いた。  銃声が響いた瞬間、周囲の空気が凍りつく。  男に全員の視線が集まる中、頭から鮮血を流して倒れていく。 「えっ……? ……きゃあっ!」  殺された男の近くにいた女が、茫然とした後、悲鳴を上げた。  辺りはパニック状態に陥り、部屋の中から出ようと試みる。しかし、黒刀に手をかけたキリヤが彼らとの距離を詰め、一瞬で骸に変えてしまった。  傷が痛んだが、キリヤは無表情を決め込んだ。  その間に警告音を鳴らされてしまった二人だったが、動じなかった。  出入り口は封鎖されており、逃げ場はない。 「おい、そこの女」  キリヤの声に顔を向ける女。だが、その表情は怯えきっている。 「な、なんでしょうか?」 「俺達がここに戻ってくるまで、出入り口を開けるな。警察に連絡しても繋がらんから、止めておけ」  キリヤはそう言いながら、脚と左腕を深めに斬りつけた。 「これは念のためだ、余計なことはするなよ?」  女は痛みに顔をしかめながら、首を縦に振った。 「いくぞ」  その言葉にうなずいた美乃華は、後に続いた。
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