序章 二人の日常

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 美乃華は顔を真っ赤にしながらも、ぼそっと不満を口にした。 「可愛いなと思っているだけだ」  照れもせず、キリヤはさらっと言ってのけた。 「……っ」  かあっと美乃華の顔がさらに赤くなる。 「様子がおかしいぞ?」  先ほどの笑みをはりつけたまま、キリヤが言った。 「あなたが照れさせるような台詞を何度も言うからじゃないですか! こっちの身にもなってくださいよ! 恥ずかしくてどうしたらいいのか分かりませんっ!」  もうっ! と言って、美乃華は頬を膨らませた。 「くくっ。恋をしていると、ダメだな」  キリヤは溜息混じりに言った。 「なにがダメなんです?」  美乃華は言いながら、キリヤをキッと睨む。 「そうやって怒っている顔も、可愛く思えてしまうんだよ」  動揺した美乃華だったが、それでも睨みを利かす。 「そう、睨むな」  キリヤはそう言い、頬に触れ、そっと自分に向けさせる。 「可愛い顔をしているんだ。……眉間にしわなど似合わない」  キリヤは囁きながら、彼女の唇にそっと口づけた。  美乃華は耳に至るまで顔を真っ赤にして目を閉じる。  何度か口づけをすると、キリヤはぎゅうっと抱きしめる。 「キリヤさん?」 「悪い、苦しかったか?」 「いえ、そうではなくて」 美乃華は慌てて否定した。 「ん?」  キリヤは不思議そうな顔をして見つめている。 「そんなに力を込めなくても、いなくなったりしませんよ」  キリヤを振り返って、美乃華が言った。 「そうは言ってもな……」  キリヤは言葉を濁しながら、どうしても不安だということは口にできなかった。 「……怖がらなくても、いいんですよ?」  ふふっと笑いながら、美乃華が言った。
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